サナ帰る
「あ、サナお帰りー」
「ん。ただいま」
店番をしているとサナが帰ってきた。出陣した第一騎士団を援護するために別の四天王の城を小突いていたんだよね。
「――女のニオイがする」
いきなり険しい顔をするサナだった。
「おんな?」
「ん。被害者面してニキに近づき、ニキからちょっと優しくされただけでコロッと落ちてしまいそうな女のニオイがする」
なんだか妙に具体的だね?
この店はいわゆる『怪しいお店』なので女性がやって来ることはほとんどない。勇者パーティーの他にはアリサさんくらいしか来店していないはず。
でもアリサさんたちが僕なんかに「コロッ」と行くはずないしなぁ? まぁ紗凪が変なことを言うのはいつものことか……。
……あ、あとはローブを目深に被った女性もやって来たね。推定・公爵令嬢のセリーナ様が。
確かにセリーナ様は婚約者から冷たくされているみたいだけど、だからといって庶民で何の取り柄もない僕を相手にするはずがない。うんうん、きっとサナの勘違いだね。
「大丈夫? ケガはなかった?」
「ん。四天王とは戦わなかったし」
「あ、無茶はしなかったんだね?」
「……第一騎士団が負けたと連絡が入ったから、私たちも撤退した」
「え? そうなの?」
「うん。ここで四天王を討伐して『敗戦』の衝撃を薄めてしまっても意味ないし」
衝撃を薄めるってどういうことだろう? 普通は騎士団の敗戦を誤魔化すために何らかの戦果が欲しいところなのだけど。
……第一王子が負けて失脚すれば、もう求婚もされることがないから? だからあえて無理をしなかったとか?
…………。
……いやいや、あのサナがそんな腹黒いことを考えるはずがないか。うんうん、考えすぎ考えすぎ。
どうやら戦いに身を置きすぎて思考が偏ってしまっているみたい。これはだんだんと矯正していかないとね。
そんなことを考えていると、なぜだかサナが自信満々に胸を張った。
「それと、途中でシルバーウルフの群れを見つけたから皆殺しにしてきた」
シルバーウルフ。
普通の狼よりも身体が大きく、頭がいい魔物だ。上位個体は簡単な魔法も扱うという。
ゴブリンよりは数が少ないけど、ゴブリンよりも頭がいいので脅威度の高い魔物となる。かくいう僕とサナも昔危ない目に遭ったんだよね。まだサナが聖剣を扱いきれていなかった頃のお話だ。
「皆殺しって言い方はともかく、危険な魔物を退治したんだね。偉いなぁサナは」
よしよしとサナの頭を撫でる僕だった。
「ん。シルバーウルフは危ない。見つけ次第殲滅する」
魔王討伐も大事だけど、人々を苦しめる魔物狩りも大切。サナもちゃんと勇者としての使命を遂行してきたみたいだ。
「ほんと、サナは偉いなぁ」
「むふん」
なんだかサナが気持ちよさそうな顔をしていたので、その後もしばらく頭をなで続ける僕だった。




