閑話 魔王の決断
――大勝利であった。
王国の騎士団は同士討ちを始め、少なくない人間が死亡し、指揮官である王子は敵前逃亡した。
「さすが魔王様!」
「魔王様!」
「魔王様!」
「魔王様!」
デザイアがやられたあとも陣地を守り続けていた魔族たちが万雷の拍手で魔王を称える。
だが、魔王の表情は厳しかった。
魔王には分かっているのだ。
いくら局地的に勝利を重ねたところで、勇者をどうにかしなければ全てをひっくり返されてしまうことが。
勇者。
当然、魔王も勇者については調べさせてあるし、王都には潜入に特化した能力を持つ魔族を派遣して情報を集めさせている。
その結果として、魔王が注目したのは『ニキ』という少年だ。
ランクAの鑑定眼持ち。
魔族から見ても貴重なスキルだが、それだけ。勇者パーティーでは戦闘に加わらず、裏方に徹していたという『村人』だ。勇者のような破壊力はなく、盾役のような防御力もなく、魔法も平凡で、聖女のような聖なる力もない。
平々凡々。
だが、勇者はそんな少年に惚れ込んでいるという。
ならば。
勇者攻略の鍵はニキであると、魔王は確信を抱いていた。
今まではニキも勇者と行動を共にしていたので接触することは叶わなかった。だが、勇者パーティーを抜けた今ならば――
『――魔王様、戦勝まことにおめでたく』
通信魔法で四天王の一人、風のフィーナが賞賛してきた。騎士団を撃退した今なら傍受されることなく通信できると判断したのだろう。
「いや、まだこれからだよ。勇者を倒さなければ何の意味もないからね」
『勝利に浮かれることなく次を見据える姿勢、感服いたしますわ』
「うん、ありがとう。――フィーナ。何日か魔王軍の指揮は任せる」
『自分がですか?』
「デザイアとグラント亡き今、指揮を任せられるのはフィーナくらいしかいないからね」
『それはそうですが……魔王様はいかがなされるのです? まさか、どこかおケガを?』
「いや、これから騎士団の後を付けて王都に潜入するよ。騎士団が敗走してくれば王都は大混乱だからね、簡単に入り込めるはずだ」
『人間の国に!? 危険すぎます! もし万が一のことがあったら――』
「勇者を倒すためには『ニキ』に会わなければならないんだ。分かって欲しい」
『ニキ、ですか? 勇者の思い人だという……?』
「うん、そうらしいね」
『…………。……承知いたしました。魔王様にもお考えがあるのでしょうし』
「理解が早くて助かるよ。大丈夫。無茶はしないから、よろしく頼むよ?」




