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村人Aとヤンデレ勇者(♀)  作者: 九條葉月


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閑話 魔王の力

 

 王太子ダルタスは意気揚々と四天王デザイアの城を目指していた。


 何とも簡単な仕事だ。


 率いるは王国が誇る第一騎士団。騎士団長はダルタスの威光にひれ伏し、自ら騎士団の指揮権を委譲してきた。


 敵の指揮官であるデザイアはすでに討伐され、おそらくは組織だった抵抗もできないはずだ。しかも勇者が他の四天王を攻め、こちらへの援軍を出せないようにしてくれている。


 ここで『初めて四天王領を占領した』という栄誉を得られれば次の王はダルタスに決まりだ。そのあとは小うるさい公爵令嬢との婚約を破棄して勇者と婚約すればいい。その後、やかましい貴族共を黙らせてから正式に男爵令嬢(アリス)と結婚するのだ。


「はははっ、何とも輝かしいではないか私の将来は!」


 自らに都合のいいことばかり考えながらダルタスは土のデザイアの城に到着した。


 元々は頑強な城だったのだろうが、報告書にあったとおり勇者によって大部分は破壊されていた。あとは騎士をなだれ込ませ、残った魔族共を駆逐すればこちらの勝ちだ。


 通常であれば城の修復作業をしているはずだが、そのような様子はない。人手が足りないのか、あるいは城としては廃棄されたのか……。


 どちらにせよ、ダルタスにとっては好都合だった。人手が足りないのなら簡単に攻め落とせるし、たとえあちらが放棄したあとでも『初めて四天王の領地を攻略した男』という名誉を得られるためだ。


 勝利を確信しながらダルタスは剣を抜き、天高く掲げた。


「――騎士たちよ! 突撃せよ!」


 さすがは王族なだけあって、威風堂々とした号令であった。


 騎士たちとしてはもう少し様子を見たり斥候を放ったりしたかったのだが、最高指揮官が突撃命令を下してしまったのだから仕方がない。徐々に、散発的ながら、騎士たちが城に向けて突撃していく。……あれだけ破壊された城ならば、という油断も騎士たちの間にも存在していたのだ。


「……ん?」


 ダルタスが輝かしい未来に浮かれながら戦況を見守っていると――破壊された城門から、人が一人出てきた。


 ボロボロのローブを被っているので顔は分からないが……体格からして少女だろうか?


 魔族に捕らわれていた少女か。


 あるいは、魔族による罠か。


 どちらにせよ、我が国の誇る第一騎士団の騎士であれば上手いこと処理するだろうとダルタスは判断し、見守ることにした。そもそも彼が何とかしようとすれば伝令の騎士を呼び寄せ、詳細な命令を下し、前線まで向かわせなければならない。その手間を惜しんだというのもある。


 そして騎士たちのうち三人が先行し、ローブを被った少女に接触して――


「――何をやっているのだ!?」


 眼前の光景に思わずダルタスは叫んでしまった。少女に手を伸ばそうとした騎士の腕を、隣にいた騎士が切り落としてしまったのだ。


 いきなりの同士討ち。


 当然のことながら、味方を斬った騎士は別の騎士によって斬り伏せられた。それ自体は想定内だったのだが……今度は、腕を切り落とされた騎士が剣を腰だめに構え、助けてくれた騎士の腹を刺したのだ。


 その後も次々と巻き起こる、同士討ちの連鎖。


「な、なんだ? 何が起こっている……? お、おい! 伝令兵! すぐに止めさせろ!」


「は、ははっ!」


 ダルタスの命により伝令兵が前線へと向かうが、もちろん彼が到着する前に前線の騎士たちが動き、同士討ちをした騎士たちを取り囲んだ。


 そして。正気を失ったように互いを斬りつけ合う騎士たち。一人や二人ではない。数十人が一斉に剣を抜き、近くの騎士に斬りかかったのだ。


「くっ!? 状態異常を掛けられたか!? だが、騎士たちは全員耐性を付けているはずだ! こんな簡単に――」


 気づいたときには。


 ローブを被った少女は、ダルタスの目の前にまで接近していた。


 華奢な少女だ。

 杖を持っていないので魔法使いではないだろう。


(いや、魔族は杖なしでも魔法が放てるのだったか?)


 混乱し、そんなことを考えてしまうダルタス。彼の目にはもはや騎士たちの同士討ちすら映っておらず、ただ、ただ、少女にばかり気を取られている。


 そんな少女が、被っていたローブを外した。


 短く切りそろえられた金髪が露わになる。


「――――」


 見覚えがあった。


 ダルタスには、見覚えがあった。


 だが、こんなところにいるはずがない。あの子は死んだのだ。あの寒い日に。あの薄汚れた場所で。ダルタスのせいで。


 そうして。

 金髪の少女は、ダルタスに微笑みかけながら、言った。




「――お兄様」




「や、やめろぉおおぉおおおおっ!」


 愛馬の腹を蹴り、走り出させるダルタス。どこに向かっているかなどもはや分からぬ。馬の背の上で身を縮め、瞼を閉じ、耳を塞いでとにかく遠くへ逃げようとする。


 妹が。妹が来たのだ。


 まだ恨んでいるのだ。


 僕を連れて行く気なのだ。


 誰か、誰か助けて。


 誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、


 誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、


 誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か。


 たすけて。




 いもうとを、たすけて。



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