閑話 アリサと
――騎士アリサは浮かれていた。
なぜならばニキが見送りに来てくれたからだ。第一王子のお守りという面倒くさい仕事ではあったが、ニキが応援してくれたのならば話は別。必ずや城を落とし領地を確保すると決意していたのだ。
とはいえ、アリサの活躍の場など本来はない。第一騎士団の中でも王太子が率いる集団(主部隊)は前面に展開し。アリサのいる集団(予備戦力)は少し離れた後方に陣取っていたからだ。
予備選力を率いるのは本来の第一騎士団長。王太子が『ご出陣』なされたので指揮を任せているが、万が一の時のために最精鋭を手元に残し、火消し役として備えているのだ。
「アリサよ」
浮かれまくるアリサに騎士団長が近づいて来た。王都での出陣式の際、ニキに手を振りまくるアリサにゲンコツをかました人物だ。
巌のよう、という表現は陳腐かもしれないが、そうとしか表現できない男だ。冒険者ギルドマスターのデーニッツも筋骨隆々なのだが、そんなデーニッツよりもさらに一回り大きな気さえする。――国家の精鋭である第一騎士団を率い、国の守りを背負う男に相応しい威容であった。
「団長殿。何かありましたか?」
先ほどまでの浮かれ具合を瞬時に引っ込め『キリッ』っとした顔をするアリサ。彼女は(ニキが関わらなければ)クール系の女騎士なのだ。
「うむ、城攻めが始まる前に決めておきたいことがあってだな」
声を潜める騎士団長。そんな枯れの様子にアリサもさらに顔を引き締めた。戦における流れなどこれまでの軍議で十分に検討され尽くしているし、今から攻めるのは勇者によって破壊され尽くした城。だというのに二人きりで話し合いをするというのだから――軍議の場では口に出せない内容となる。
「なんでしょう?」
「……『万が一』のときの殿をどちらが務めるか決めておこうと思ってな」
殿。つまりは、撤退時に味方の最後尾に位置し、敵の追撃を食い止める役割だ。当然ながら逃げることができるのは最後になるし、勢いに乗る敵の攻撃を受けるので生存率は極めて低くなる。
もし四天王クラスが戦場に現れたとき、対抗できるのは第一騎士団長とアリサのみ。ゆえにこその相談であった。
だが。
「戦が始まる前から負けたときの相談ですか? しかも、王太子殿下が出陣なされた戦です」
「……国王陛下は、負け戦であることも織り込み済みだ」
「なんと」
アリサには国王の深遠な考えなど分からない。が、騎士団長の思考は理解できた。
王太子殿下が引き連れている集団は、数こそ多いが未熟な騎士が多い。さらに言えば騎士団長に対して反抗的な騎士も混じっている。
対して。予備選力として騎士団長が後方に留めている集団は、数こそ少ないが精鋭揃いだ。
――たとえ王太子が引き連れている騎士が全滅しても、騎士団長と予備選力が王都に帰れば騎士団の再建も容易である。
そして。出陣前にサナとやったやり取りを思い出す。
――魔王が出陣するかもしれない。
まさかそんなことはないだろうと考えていたが、国王陛下や第一騎士団長が『そう』動いているのなら、もしかしたら本当に魔王が出てくるかもしれなかった。
ならば、
「私が殿を務めましょう」
迷うことなく殿を受け入れたアリサに騎士団長は目を丸くする。殿の生存率の低さなどよく分かっているはずなのに。
「いいのか?」
「はい。私は何度も勇者パーティーに同行していますので。魔族相手であれば団長より私の方が慣れています。生き残れる確率で言えば、私の方が高いでしょう」
「しかし……」
「それに、『万が一』のときはアレが逃走中にウダウダと言い訳をしたり八つ当たりをするでしょうし。そうなったらアレをズバッと切り捨ててしまうかもしれませんから」
「……なるほど、それは大問題だ」
頷くしかない団長だった。『名誉の戦死』であれば織り込み済みであるが、『騎士に後ろから斬られる』は問題がありすぎるのだ。




