セリーナ
魔導具やスキルについて知りたいというご令嬢。カウンターに置かれた金貨一枚。
情報の対価としてお金を、というのは珍しくもない話だ。僕だって勇者パーティーの一員だった頃は何度もこんな感じのやり取りをしてきたのだから。
そしてこういうお店で魔導具について調べようとするのも間違ってはいない。貴族社会では流れないような情報もあるからだ。スキルはともかくとして。
しかしまぁ、情報料として金貨一枚というのは豪勢だよね。一般庶民なら半年は暮らせるのでは?
さらに言えば。まだ僕が『魔導具やスキル』についてご令嬢の望む答えを知っているかどうかは分からないのに、先にお金を払ってしまうというのは……。うーん、知識だけは知っているけど実践経験はない箱入りお嬢様ってところかな?
「えーっと、僕でいいのですか?」
「はい。ニキ様は勇者パーティーの一員として多くの魔族や魔導具を目にしてきたでしょうし。もしかしたら人間には知られていないものもご存じかもしれないと思いまして。……急な訪問となり、申し訳ございません」
「あぁいえ、お気になさらず。では成功報酬ということで」
一旦金貨はその場に置いておくことにした。
こうも丁寧に対応されると、こちらとしても「力にならなきゃ」と思っちゃうよね。まぁ僕程度が力になれるとは思えないけど。
「どのような魔導具について知りたいのでしょうか?」
「はい。――他人の望む姿になる魔導具、などありますでしょうか?」
「他人の……?」
「あるいは、洗脳や魅了の魔導具など。類似のものやスキルでも構わないのですが」
「うーん……」
変身系の魔導具ならあるけれど。それだって髪色を変えたり肌の色を変えられる程度だ。顔つきや体格は変わらないし、他人の望む姿になるなんて無理な話。……いや銀髪好きの人のために銀髪になるとかなら分かるけど。そういうのじゃないだろうし。
「自分の望む姿ではなく、他人の望む姿ですか? その、もう少し具体的な話を伺ってもいいですか?」
魔導具かスキルだと当たりを付けているのだから、そう推測できる『何か』があったのだろうし。
「……そうですよね。具体的な説明をしなければなりませんか……」
ご令嬢は少し逡巡してから説明を始めた。
「これはわたくしのことではなく、友人のことなのですが」
「あ、はい。ご友人」
そういうことにしろって感じか。……あるいは本気でごまかせると信じている可能性も?
「友人には婚約者がいるのですが、その婚約者がとある男爵令嬢と恋仲になりまして」
「あ、はい」
婚約者とか、男爵令嬢とか……。自分が貴族だと隠す気はないのだろうかこの人は?
「ですが、その男爵令嬢は同時に他の男性たちとも深い仲になっているようでして……」
なんかとんでもない話をされてない、僕? 複数の男性と深い仲って。
……この人の立ち振る舞いや、背丈、そして声音から判断するに――たぶんセリーナ・アウシュテイン公爵令嬢だと思う。
第一王子の婚約者で、僕たちが王城に招かれるとホスト役として対応してくれる人。とても美しい女性で、未来の王妃としての気品に溢れているお方なのだけど。
え? セリーナ様の婚約者だから、第一王子だよね? さっき土のデザイアの領地を攻め取るために出陣した……。おおぅ、第一王子の浮気話を聞かされちゃってるよ僕……。




