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村人Aとヤンデレ勇者(♀)  作者: 九條葉月


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 閑話 祝賀会・2




 祝賀会の会場にアホ王子の姿はなかった。たぶん出禁になったのだと思う。


 それはいいのだけど、今度はもう一人の王子が寄ってきた。さっきのアホがいかにも武闘派な外見をしているのと裏腹に、こっちの王子は優しげな風貌をしている。お腹の中は真っ黒だけど。


 この二人の王子は王位継承権争いをしているらしい。


「勇者様。この度は兄上が大変な失礼を――」


「……いえ、失礼など」


 めんどくさ、という心境は顔に出ていなかったはずだ。


 私の口数が少ないのはもうみんな知っているので、王子も雑談などせずに本題に入った。


「――私は、勇者様とニキ君の結婚を応援しますよ」


 にっこりと。すべて分かっている風な顔で微笑む王子だった。めんどくさっ。


 つまりアレだ、自分は理解者だから味方になってねと言いたいのだこの王子は。めんどくさっ。応援されなくても私とニキが結ばれるのは運命だというのに。


 しかし私の無表情はちゃんと仕事をしたらしく、面倒くさがっていることはバレなかったっぽい。


「そういえば。やっと騎士団の準備が整いまして。近々、兄上が騎士団を率いて土のデザイアの領地に攻め込もうという話になっているのですよ。おっと、すでに勇者様に討伐されましたから、元領地ですか」


「へぇ」


「どうでしょう? 四天王不在とはいえ、この戦いが始まってから人類が魔族領に攻め込む最初の戦いとなるのです。兄上は無事に使命を成し遂げられるでしょうか?」


「……兄が武功を立ててしまうと、継承権争いで不利になる?」


「…………」


「今の状況なら他の四天王も援軍は出せないし、普通に考えれば勝てる戦い。指揮官であるデザイアがいなければどれだけ兵がいようとも烏合の衆でしかない」


「うごうのしゅう?」


「数だけいても無駄ということ」


「ははぁ、なるほど。勇者様は博識ですね。……『普通に考えれば』というのはずいぶん意味深ですね?」


 この王子の表情からは『兄上(アホ)が指揮官なら負けるかもな』という本音が透けて見えるし、私もそうだと思う。


 そしてもう一つ可能性が。


「――魔王が出陣すれば、たぶん負ける」


「し、四天王がまだ残っているのに、魔王が城を出て戦うと?」


「四天王が残っているから魔王は戦えない、なんて法律はない」


 ゲームじゃあるまいし。


「それは、そうですが……」


「私の予感が正しければ――あなたの望み通りになる」


 気を使って小声で断言すると、王子は困ったような笑いを浮かべた。ニキのものとは比べものにならない、作られた醜い微笑みだ。


「いや、勇者様は噂で聞くより聡明な御方だったようだ。――これからも良好な関係を築きたいものですね」


「ん。私とニキの幸せを邪魔しないなら、誰が国王でもいい。理解がある方を応援する」


「なるほど分かり易い。そういうのは大切です」


 王子がグラスを掲げたので、私も自分のグラスを持ち上げ、打ち鳴らしたのだった。





 祝賀会はさっさと切り上げて、ニキの元へと帰った私だ。一次会だけ参加して二次会以降は退散するあの感じ。


「……面倒くさい」


 料理をお皿に盛りつけるニキを眺めながら、私はついつい声を漏らしてしまうのだった。


「えー? なにかまた面倒くさいことになっているの?」


 ニキが料理の載ったお皿を持ってきて、私の対面に座った。料理名は――炒飯だ。この世界にはなかったものだけど、私がふんわりとした説明をしたところ完璧な再現をしてくれたのだ。ニキ天才。


「ん。王位継承権争いが面倒くさそう」


「あー、そっかぁ。魔王が倒されたらそっちが騒がしくなるのかぁ」


 ニキは平民なので学校での教育を受けたことはないけど、頭はいいので今の状況を正確に理解している。それは分かっているけれど……それでも説明し始める私だった。つまりはただの愚痴だ。


「この国の王子は二人。筋肉ダルマと腹黒」


「……もうちょっと言い方をね? 勇者がそんな呼び方をしているとバレたら大問題だよ?」


「誰も聞いてないからいい」


「僕が聞いているんだけどなぁ」


「ニキと私は一蓮托生。一緒のお墓に入る」


「いちれんたくしょー?」


 その輝かしい未来のためには、現状をどうにかしないといけない。ニキに迷惑が掛からない範囲で。


 コツン、と人差し指でテーブルを叩く。


「……筋肉ダルマはバカだけど正室の息子。王位継承権第一位」


「うんうん」


 今度は中指でテーブルを叩く。


「腹黒は頭が良くて人望もあるけど側室の息子。筋肉ダルマがよほどの失敗をしない限り王にはなれない」


「うんうん」


「で、筋肉ダルマの方は私を嫁にする気満々」


「うわぁ」


「……ニキはどう思う?」


「サナが望むなら応援するよ」


「……私が嫌だと言ったら?」


「その時は逃げちゃおうか。一緒に」


 即答してくれるニキだった。


「うん、逃げよう。ニキとなら別の国でも暮らしていける。でも、お店はいいの? 貯金を全部使って買ったんでしょう?」


「ちょっと勿体ないけど……でも、しょうがないよね。サナを一人にはできないし」


「……うん、ありがとう。ニキ」




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