閑話 祝賀会
――くだらないなぁ、と私は思う。
王や貴族という存在は、本当にくだらない。
魔王との戦いは勇者に丸投げで、自分たちは何もしない。そのくせこうして結果を残せば半ば無理やり王城に呼び出すのだから。
まぁ、お金を出してくれる分、勇者に身勝手な期待ばかりする庶民よりはマシだけどね。
謁見の間に入ると、王や貴族連中が出迎えてくれた。国王夫婦が正面真ん中の玉座に座り、玉座の左右にこの国の王子二人が立っている。
この王子二人のうち片方は私に下卑た目を向けてくるので嫌いだ。国王はまだマシな人間なのだけど、どうして息子はこんなにもダメダメなのだろうか?
おっと、嫌悪感を顔に出してしまってはニキに叱られてしまう。私は普段の無表情をさらに無表情にしながら王の前へと移動した。
ちなみに部屋の左右には偉い貴族共が私たちを威圧するように並んでいる。その目に込められている感情は、興味、好感情、打算、嫌悪などなど。まったくもって面倒くさい反応だ。せめてみんな同じ感情を抱いてくれればいいのに。まぁニキ以外の人間からどう思われようと関係ないのだけど。
ここで通常の流れなら王の前で片膝を突き、四天王討伐の報告をするといったところ。王の前での報告は何度か経験しているので慣れたものだ。
……いや、全然違う。
今はもう、隣にニキがいない。
私が不安になってもニキは手を握ってくれないし、失敗してもフォローしてくれない。なにより、私がブチ切れても止めてくれる人間がいないのだ。
…………。
もしもやらかしたら、この国を捨てて逃げだそう。
そうなったらニキにも付いてきて欲しいな。
きっと付いてきてくれる。
……でも、お店を持ったばかりだから難しいかな? 貯金を全て使って買ったということだし。
ニキと離ればなれになるのは嫌だから、なんとか正当防衛で殺れないかな?
そんなことを考えていると、私たちが膝を突く前に国王が玉座から立ち上がった。そのままゆったりとした足取りでこちらへと向かってくる。
国王の動きを見て、ガルスが慌てて私を肘で突いた。たぶん「おい! 急いで膝を突くぞ!」という合図なのだと思う。
その動きを見て取ったのか国王が鷹揚に片手を上げた。
「よい、よい。世界を救う勇者とその仲間たちに膝を突かせるわけにはいかぬからな」
今までは膝を突かせていた癖に、現金な男だ。
最初は端金を持たせてさっさと放り出したくせに、調子のいいことを。
まぁでも、その辺はニキに「しょうがないよ」と諭されたので気にしていない私だ。命拾いしたな。ニキに五体投地で感謝するといい。
と、私がニキのことを考えたからではないだろうけど。
「けん――ニキはどうしたのだ? いないのか? よもや、何かあったのか……?」
国王の態度から読み取れるのはニキに対する心配。
ニキの名前を覚えて、存在を記憶して、こうして心配してくれた。国王に対する好感度が急上昇した私だった。うん、殺すのは最後にしてやる。
私に変わって、この場で最も地位の高い『聖女』アイリスが対応する。
「ニキは自らの力不足のせいで勇者様に危険が及ぶことを恐れ、パーティーを辞しました。……ご安心ください。今も王都で生活し、勇者様とも良好な関係でありますので」
「そ、そうか……。それならいいのだ。うむ、ニキに万が一のことがあっては大変だからな」
わずかに冷や汗を流す国王だった。うん分かる。人類の存亡なんかよりニキの安否の方が重要だからね。
私が神たるニキを心の中で称えていると、
「――父上。パーティーを抜けた者などどうでもいいでしょう。まずは四天王討伐の労をねぎらいませんと」
二人いる王子のうち、一人がこちらに歩み寄ってきた。私に下卑た目を向けてくる、筋肉が脳にまで達している方だ。
…………。
いま、ニキを、どうでもいいと、いった?
よし殺そう。
大丈夫、聖剣なんてなくても素手で十分だ。
私が指をパキッと鳴らしたところで、
「――ひかえろ! ダルタス!」
私の殺気を読み取りでもしたか、国王が一喝する。
へぇ、殺気はほとんど漏らしていないはずだけど、中々やるね。あと気づいたのは近衛騎士団長とアリサくらいかな? ちなみに近衛騎士団長は腰の剣に手を伸ばしたけど、アリサは無反応。ニキ以外の男のために命を賭けるつもりはないらしい。
もちろんアホ――じゃなくて王子ダルタスも殺気には気づいていないので、王に一喝されたにもかかわらず平然とした様子で私に微笑みかけてきた。
「勇者サナ。ご苦労だったね。キミは平民だが、魔王討伐の功績があれば貴族籍を得ることもできるだろう。そうすれば私との婚約も問題なく公表できるはずだ」
まるで内緒話をするかのように、周りに聞こえない程度の声で、そんな寝言をほざくアホ。
なんで私との婚約?
そもそも、あなた婚約者がいるでしょうが。
やっぱり殺そう。
もはや聖剣を使っても許されるはず。
一振りで王子を殺っちゃって、返す刀で国王も殺っちゃおうか。
と、そこまで考えたところでニキの言葉が蘇ってきた私だ。
『――無茶しちゃダメだからね?』
うん分かった無茶はしないよ! 大丈夫だよニキ私はニキの言うことだけは聞くからね! さすがニキこの場にいなくても私を止めてくれるだなんて! すき!
私がここにはいないニキに絶大なる愛を伝えていると、
「――この愚か者が! 勇者殿に対してなんという口の利き方だ!?」
私の殺気がいよいよヤバいと察したのか、国王が王子を怒鳴りつけた。正直おめでたい席には似つかわしくないけど、まぁ自分の命が掛かっているものね。
しかし王子はなにも理解できていないようであり。
「し、しかし父上。未来の妻になるのですから……それに、平民に対して国王が『殿』をつけるなど……」
王子の妄言が聞くに堪えないのか、国王は周りを見渡しながら宣言した。
「皆の者! 今宵は宴だ! すでに四天王のうち二人を討伐した勇者殿を称え、祝杯を挙げようではないか!」
空気を読んだらしい周りの貴族が、いつもより少し大きめに拍手をしたのだった。




