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村人Aとヤンデレ勇者(♀)  作者: 九條葉月


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3/18

嘆き

「――俺がどうしたって?」


 ぬっ、と。受付の奥から出てきたのは冒険者ギルドのマスター・デーニッツさんだ。


 筋骨隆々。顔には大きな切り傷。そしてトドメとばかりにスキンヘッド。夜道で会えば十人中十人が逃げ出すだろうし、昼間に会っても大半の人間が距離を取りそうな見た目をしている。


 いや、人を外見で判断しちゃいけないし、デーニッツさんはその筆頭なのだけどね。


 そんなデーニッツさんの登場にエリーさんは腰を抜かすほど驚いていた。


「げぇ!? ギルマス!? なぜここに!? 出張はどうしたんですか!?」


 いやいやエリーさん。『げぇ!?』ってあなた。キャラ違いすぎません?


「出張が早く終わったからこうして帰ってきたんだろうが。あと、冒険者共じゃないんだから『ギルマス』なんて言葉を使うな。きちんと『ギルドマスター』と呼べ」


 なんとも常識的なデーニッツさんだった。顔面の凶悪さのせいで脅しているようにしか見えないけど。


「……で? 何の騒ぎだ?」


 デーニッツさんがギルドを見渡すと、今まで騒いでいた冒険者たちが『ぴたっ』と動きを止めた。さすがはギルマス。元Sランク冒険者なだけはある。


 誰も事態の説明をしないことに痺れを切らしたのか、デーニッツさんが鼻を鳴らしてから僕に視線を移した。彼は身長もデカいので顔を合わせるとかなり首が痛くなってしまう。


「ニキ。何があったんだ?」


「はい。ちょっと勇者パーティーを抜けようと思いまして」


「……なに?」


 威圧感とでも言うのだろうか? デーニッツさんから凄みのような雰囲気が発せられ、何人かの冒険者が腰を抜かしたり気絶したりしてしまった。


 デーニッツさんは不機嫌になるといつもこれだ。


 僕はサナとの付き合いで耐性がついているからいいけれど、他の人はまだ慣れていないのかオーバーな反応をしちゃうんだよね。


「……ニキがこんな冗談を言うヤツじゃないとは分かっているが……冗談じゃ、ないんだよな?」


「はい。やっぱりそろそろ戦闘についていけなくなりまして」


「…………。……まぁ、だろうな。危険から身を遠ざけたい気持ちも分かるし、ニキは今まで勲章ものの活躍をしてくれた。俺が止めるものでもないだろう」


「「「ギルマス!?」」」


 エリーさんや冒険者さんたちがなぜか悲痛な叫び声を上げる中。デーニッツさんは試すような目で僕を見下ろしてきた。


「だが、勇者の嬢ちゃんは承知しているのか? もし承知していないなら――」


「あ、大丈夫です。快諾してくれましたから」


「……快諾というのも信じられんが……どんな話の流れになったんだ?」


「僕がパーティーを抜けたいと相談したら頷いてくれました」


「端折りすぎだ。そのとき嬢ちゃんはなんて言っていたんだ?」


「……えーっと、たしか、僕が家庭に入りたいのかと言い出しまして」


 よく考えれば変な話だ。家庭に入るってどういうことだろう? 女性が嫁入りすることを『家庭に入る』と表現することはあるけど、僕は男だしなぁ? サナはときどき変な言葉を使うし、今回もそれなのかな?


「……で?」


「で、僕が家で出迎えてくれたら超がんばれるとか、魔王も倒せるとか、そんな感じの話を」


 この『家』というのは自宅という意味ではなく、パーティーで借りて共同生活をしている屋敷のことだ。いわゆるパーティーハウス。


 パーティーメンバーが増えると全員分の宿を探すのも大変だし、こうして中古の屋敷を借りるのが一般的なんだよね。


 そんなことは冒険者の常識なので、わざわざ説明しなくてもデーニッツさんは理解してくれているはずだ。なにせ彼は冒険者ギルドのマスターなのだから。


 僕の説明を受けてデーニッツさんは腕を組み、何度も何度も頷いていた。


「そうか……。なら、若いもんに任せるべきか。二人の門出を俺が邪魔するもんでもねぇからな。それに魔王を倒した後だと国が横やりを入れてくる可能性もある。その前に教会で籍を入れちまえば……。あの嬢ちゃんもとうとう勇気を出したか……」


「勇気?」


 サナは勇者なのだから勇気あふれるのは当然なのでは?


「――分かった。王城には俺の方から話を通しておこう。ニキが抜けるとなれば多少時間は掛かるかもしれねぇが……王都冒険者ギルドマスターの名にかけて、お前さんの平穏な脱退を約束しよう」


「ありがとうございます」


「じゃ、ちょっと書類を書いてもらうから奥に来てくれや」


「はーい」


 なんだか周りが騒がしいし、落ち着いて書類も書けなさそうなので素直に頷いた僕だった。デーニッツさんの後に続いて、ギルドの奥に移動する。


 エリーさんの「なんでぇ!? どうするのこれぇ!?」という悲痛な叫び声を背中に受けながら。



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