血
サナたちは四天王討伐の報告をするため冒険者ギルドに向かった。
なんだかガルスさんたちが一緒に来て欲しそーな雰囲気を発していたけれど、たぶん僕に気を使ってくれたのだと思う。「いきなり仲間はずれにするのは可哀想だろう」って感じで。
ガルスさんって見た目は厳ついけど心優しいからね。「くっ、やはり俺たちがあの暴走娘を止めなきゃいけないのか……ニキがいれば何とかなるのに……」とか呟きながら悔しがる演技までしてくれていたし。
それに、サナはちゃんと言葉を尽くせば理解してくれる子だもの。ガルスさんもそこそこ長い付き合いなのだからその辺も理解しているはず。
そんなわけで。サナたちがいない中、僕はお店の拭き掃除をしていたのだった。さっきサナが生首を振り回していたから血がそこら中に飛び散ってしまったのだ。
死者には敬意を。
なぁんて、綺麗事を言うつもりはない。僕も、サナも、そんなことを口にするには魔族を殺しすぎたし、魔族から襲われすぎたのだ。
人類と魔族は戦争中。
非戦闘民ならとにかく、あの生首さんは四天王として多くの人間を不幸にしてきたのだ。わざと辱めることはしないけど、かといって同情するのも難しい。
「うーん、天井についた血はあとで脚立を持ってくるとして……。まずは商品を拭っちゃおうかな」
時間が経って染みついちゃったら商品価値が下がっちゃうし。……魔族の血が付いた時点で下がっているかな? いやでも、言わなきゃ分からないはず……。ダメかな? 人として。鑑定士として。
うーんうーんと悩みながら商品の血を拭いていく僕。ほら、血が付いていてもいいって人がいるかもしれないし? まだ使えるものを捨てると『もったいないオバケ』が出るってサナが言っていたし? なにより大赤字になっちゃうからね。
光り輝く四角い板や、ちょっとした空間収納になっている革袋についた血を拭っていく僕。……あ、ナイフにも飛んでいるね。この前の強盗が僕を脅したときに使っていたものだ。
このナイフはどうするべきかとアリサさんに確認したのだけど、
「強盗を倒したのはニキ君なのだから、ニキ君が獲得するべきだよ。それがこの世界の『法』なのだから。いやしかしニキ君の勇姿は見てみたかったなぁ。ナイフを突きつけられても怯えることなく冷静に攻撃魔法を放つニキ君。きっと格好良かったに違いない。いやごめん間違えた『格好良かったに違いない』なんて言い方はないよねだってニキ君はいついかなる時も格好良くて可愛くて優しいながらもふとした瞬間に冷徹さを垣間見せてくれる魅力的な人物なのだから本当にこんな男性が存在することを神様に感謝するというかむしろニキ君が神様だよねうんそうだよねニキ神様――」
という感じのことを言っていたので、僕が持っていていいみたい。
それに騎士団が没収すると、下手をすればそのまま廃棄されちゃうし。それならお店に置いておいた方がいいはずだ。
「さーって、これで大体吹き終わったかな? ――おっと」
もう一つ。拭い忘れていたものを見つけた僕だった。
赤く大きな宝石。
師匠が古い知り合いから預かったもので、一見するとルビーなのだけど、鑑定しても詳細が分からない謎の物体。そもそもルビーは中身が渦巻かない。
色が赤いからよく見ないと血が付いていると分からなかったのだ。
「預かり物なのだから綺麗にしないとねー。……あれ?」
布で血を拭っているのに、どんどん広がっているね? しかも広がった血が宝石の中に滲み込んで……。
「んんー?」
宝石の色が、わずかに濃くなったような? 何だろう、これ? どうなっているのかな?
鑑定眼で鑑定してみるけれど、やはり僕の実力では鑑定できない。
ほんと、何なんだろうね、これ?




