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※勇者サナと炎のグラントの戦いは熾烈を極めた。空は焦げ、大地は割れ、魔族たちはグラントの勇姿に涙したという。だが、その戦いを語るには紙面が少なすぎるのである。
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アリサさんが強盗二人組を連れて行ったあと。
デーニッツさんも帰ったので、僕と師匠があらためてお店の引き継ぎを再開していると――
「――ニキー! ただいまー!」
お店のドアが勢いよく開かれ、サナが元気いっぱいな声を上げた。
「サナ! お帰り……わぁ!?」
サナが!? 生首を!? 厳つい男性の生首を掲げているんだけど!? ……さっきの強盗の首かなと思ったけど、どうやら違うみたい。
あーあ、生首からまだ血が滴り落ちてる……。斬り落としたてかな?
サナの後ろに勇者パーティーのガルスさん、リッラちゃん、アイリスさんがいたので視線を向けてみると……どこか申し訳なさそうな顔をされてしまった。まぁ、いきなり生首持参はねぇ。
たぶん四天王の首だよね? 四天王を討伐しに行ったのだし。と、僕が考えていると、サナが鼻をひくつかせた。
「――女のニオイがする」
「おんな?」
この店に来た女の人というと……最近だとアリサさんくらい? 香水の香りでも残っていたのかな? 都会の女性って香水をするって聞くし。
あれ、でも、アリサさんは香水をしていたっけ? なんだか甘い香りがしたけど、あれが香水ってやつなのかな? とはいえサナからも似たような甘い香りがするし……。
「ニキが私を褒めている。気がする」
「ほめて?」
確かにサナのことは考えていたけど、褒めてはいたっけ? まぁサナがズレたことを口走るのはいつものことか。
「――それよりも。女のニオイがするのは、どういうこと?」
ずいっと顔を近づけてくるサナ。相変わらずの美少女だ。幼なじみで見慣れてなかったら顔を赤くしていたと思う。
「どういうことって……さっきまでアリサさんが来ていたからかなぁ?」
「――あの女狐。油断も隙もない」
「めぎつね?」
目、キツいね? 確かにアリサさんは目つき鋭いけど、心は優しいんじゃないかなぁ。
「ニキ。女の魅力は胸の大きさじゃないと思うな私」
「いきなりどうしたの?」
うーんと……? あぁ、アリサさんは女性的な体つきをしているから、嫉妬しているのかな? まったくもー、サナはまだ少女と呼べる年齢なのだから焦らなくてもいいのに。思春期らしい悩みを持つサナに微笑ましくなってしてしまう僕だった。
ちなみに。そんなサナを見てガルスさんたちはなぜかガタガタと震えていた。どうしたのだろう? たしかに今のサナからはドロドロとした空気が発せられているけれど、アリサさんの体つきへの可愛らしい嫉妬だと思うのだけど。
ま、こういう話題は幼なじみである僕が口を出した方がいいかな?
「大丈夫だよ、サナはまだまだ成長期なんだから」
「……ん。その通り。ニキはよく分かっている」
自分の胸に手をやりながら「むふー」っと満足げに息を吐くサナだった。可愛い。
こんなに可愛らしいというのに、ガルスさんたちはまだガタガタと震えていた。もしかしてサナは関係なく寒いのかな? 四天王討伐で暖かいところに行っていたとか?
「ところでニキ。なんでアリサがここに? 最近は忙しくしているはずなのに……」
おー、アリサさんの予定までちゃんと把握しているんだ。凄いなぁサナは。きっと魔王討伐の助力を得やすい時機とかも考えているんだろうね。
「えーっとね、さっき強盗が押し入ってきてね」
あまり大したことではないので軽い感じに説明する僕だった。心配させたくもないからね。
「――ひぇっ」
と、引きつった声を上げたのはリッラちゃん。伝説級の魔法使いなのだけどまだまだ少女だからね、『強盗』と聞いて怖がってしまったのかもしれない。
「…………。……ん、分かった。殺してくるね」
気合いを入れるかのように右手をグルグルと回すサナだった。そう、生首を持ったままの右腕を。ちょっとー、店中に血が飛び散っているんですけどー?
「サナ、サナ、大丈夫だから」
「ダメ。許せない。神たるニキの店を襲うだなんて……。まったくアリサは何をしているのか。アイツがいるからこそ私も渋々王都を離れることができるというのに。……ニキ、私がいなくて不安だったよね? でも安心して。強盗共は必ずや捕まえて四肢を切断しニキに敵対したことを後悔させながら死に至らしめるから」
なんかアリサさんも似たようなことを口走っていたような? こんな僕を神だとか神にも等しいとか……。あ、もしかしてそういう演劇とか流行っているのかな? サナって色々なところに誘われているみたいだし。お貴族様の観劇に付き合うなんてこともあるのかもしれないね。
ま、それはともかく。このままだと騎士団の詰め所(留置場)を襲撃しかねないよね。万が一アリサさんと戦う展開になったら周辺が廃墟になりかねないから止めないと。
「そんなことより、サナの武勇伝が聞きたいなぁ僕」
「――っ! うん分かった! いくらでも話すよ! 夜を越えて朝までも!」
踵を返し、僕がいるカウンターに駆け寄ってくるサナだった。四天王(?)の首を抱えて。わぁあああぁあ……。
なんだろう? こう、獲物を飼い主に見せつけに来る猫っぽいというか……。




