平等
結局。勇者サナは魔族の民が逃げ切るまで動くことはなかった。
勇者は敵。
でありながらも、奇妙な連帯を感じてしまうグラントだ。
「……ふん、感謝してやろう」
「ん。感謝しているなら首を出して」
「はははっ、小癪な娘だ。ゆえにこその『勇者』か。……しかし、何故だ? 勇者であれば魔族をすべて討伐するのが使命だろう?」
「どうでもいい」
「なに?」
「人間も、魔族も、どうでもいい。生きようが死のうが、私には関係ない」
「なんだと……?」
驚きで目を見開くグラント。そんなことはあり得ない。勇者とは神によって選ばれ、神の祝福たる神剣が与えられ、神と人類の敵である魔王と魔族を誅することを使命としているはずだ。なのに、その使命を「どうでもいい」などと……。
――そうか!
グラントに天啓とでも言うべきひらめきが舞い降りる。この勇者はきっと『言い訳』をしているのだと。
勇者とはいえまだまだ幼さの残る少女。人型の生き物を殺すのは躊躇われるはずだ。たとえそれが魔族だとしても。
しかし、勇者であるからには泣き言は許されない。だから勇者は「どうでもいい」と嘘をついて魔族を見逃しているのだろう。
土のデザイア討伐の時もそうだった。
勇者はデザイアを討伐したあと、戦果拡大をせず撤退したのだという。指揮官を失った魔族など各個撃破できたはずなのに。
つまりは、そういうことだ。
この勇者は、魔族の死を望まず、なるべく争いを避けるよう行動しているのだ。だからこそデザイアの時も、今も、四天王の首を直接狙っているのだろう。――他の魔族を殺さないために。無駄な死を避けるために。
人と、魔族を、等しく同じ生命として見る少女。
「――甘いな。甘いぞ勇者」
だが、その甘さがなぜだか心地よく感じられるグラントだ。もしも自分が四天王ではなく、もしも少女が勇者でなければ。あるいは友になれたかもしれないのにと。
……もちろん、グラントの勘違いである。
もちろん、サナはそんなことを考えてはいない。
確かに。サナにとって人間も魔族も平等だ。
どちらも等しく価値がない。
彼女にとって重要なのはニキだけ。ニキ以外であれば人間だろうが魔族だろうが関係ない。ニキであるか、ニキでないか。サナの判断基準はそこだけだ。
……まぁ、最近は勇者パーティメンバーや親爺さんたちなどの例外も増えてきているが。それでもニキと比較になるような存在ではない。
四天王を直接狙っているのは面倒くさいから。少しでも早くニキの元に返りたいから。
魔族を殺さないのも、サナの意志ではない。――ただ、非戦闘民を殺すとニキが悲しそうな顔をするから。見逃せば、ほんの僅かにホッとした顔をするから。だから魔族を無駄に殺すことがないだけ。判断基準はそこだけだ。
あり得ないことであるが。ニキが魔族の絶滅を願えばサナはそうするだろう。なぜなら彼女にとってニキこそが神であり、ニキこそが正義だから。
しかし、そんなサナの異常性などグラントが知っているはずもなく。「人間らしい」推測の結果、そのような結論にいたり、一人で勝手に盛り上がっているのだった。
「……勇者よ。万が一俺が敗れたとき、あの民たちはどうなる?」
「知らない。どこかの国の騎士団が攻め込んでくるんじゃない?」
「つまり、お前は手を出さないのだな?」
「うん」
「――善き女だ。俺が勝ったとき、人間共の犠牲は最小限にすると約束しよう。貴様に敬意を表して、な」
「無駄。あなたは今ここで死ぬのだから」
「ふっ、やってみせろ!」
こうして。
勇者サナと四天王・炎のグラントの戦いが始まったのだった。




