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村人Aとヤンデレ勇者(♀)  作者: 九條葉月


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 四天王・炎のグラントvs勇者




「なんということだ」


 魔王城を出て自らの陣地に戻る道中。炎のグラントは困り果てていた。


 魔王の前ではああ言うしかなかったが、『彼』の戦闘能力が低いことはグラントもよく知っている。真正面から戦えばグラントどころか、ラキアやフィーナにすら負けかねないのが魔王という御方なのだ。


 グラントとは本来『力こそ全て』という考えを持っている男である。

 しかし、そんな彼を心酔させ、従わせることのできる『何か』を魔王は持っていた。


 魔王とは華奢な男だ。

 本来のグラントであれば「男ならもっと鍛えろ!」と苦言を呈すところ。


 だが、あれほどまでに細い身体で魔王国の未来を一身に背負い、人間共との戦いを指揮する姿にグラントは惚れたのだ。男が男に惚れる、というものだ。


 むしろ、あれだけ弱々しい存在だからこそ、肉体的に恵まれているグラントが守らなければならない。


「――おっと」


 陣地である城に近づいたグラントは着地した。風のフィーナの力を借り、魔王城からここまで風に乗って移動してきたのだ。魔王による取りなしで、友好の一環として。


 なぜ直接城の中に降り立たないかと言えば、城を覆うように防御結界が展開しているためだ。グラントであれば力尽くで結界を通り抜けることも可能だが、そのために防御結界をごちゃ混ぜにしたり破壊してしまっては何の意味もない。


 それに、僅かな間とはいえ城の外の様子を直接この目で見ることをグラントは重視していた。


 魔族とは人間の庶民と比べても貧しい生活を強いられていたが、あの御方が新たなる魔王となってからそれも劇的に改善していた。魔族は自然と共に生きることを止め、街を作り、お互いに助け合って生活するようになった。


 まだまだ時間が掛かるだろうが、魔王の治世が続けばいずれ人間共のようにレンガ造りの家に住めるようになるだろう。土のデザイアが死んでしまったのでかつてのような城壁は作れなくなってしまったが……。


 魔族とは力が全て。生まれ持った膂力か魔力がなければまともな生活も送れなかった。しかし魔王は適材適所の政策を推し進め、力のない魔族でも食うに困らない生活を送れるようになってきた。


 これからだ。

 これから、魔族はもっともっと幸せになれる。

 そのためには、人間共との戦争に負けるわけにはいかないのだ。

 あの忌々しい勇者のせいで戦況は芳しくないが……。


 グラントが決意を新たにしていると――城下町に住まう住民たちが近づいて来た。


「領主様! お帰りなさい!」


「今日も城下は平和でした!」


「魔王様のおかげですね!」


 笑顔で出迎えてくれた住民たちを目にして、グラントも思わず頬を緩めてしまう。


「おぉ、そうだ。これも皆魔王様のおかげ。感謝の心を忘れてはいかんぞ?」


 毎度のこととなった注意をしつつ、寄ってきた住人たちの姿を確認していく。こういうとき近づいてくる者は大体決まっているので顔も覚えてしまったグラントだ。肉屋に、鍛冶屋に、薬師に――


「――む?」


 民たちの中に、見慣れぬ者が混じっていた。


 頭まですっぽりとローブを被っているのでよく分からないが、おそらくは女性だろう。体格からして少女と呼べる年齢であるはずだ。


 グラントを称える輪に入ることなく、少し距離を取っている。新参者だからグラントに遠慮して近づいてこないのか……。


 ……いや、おかしいとグラントは気づく。


 あんな風にローブを目深に被った存在がいたら、民たちも訝しげな目を向けていいはずだ。なのに、誰一人としてあの少女に視線すら向けないではないか。


 あるいは、誰にも、見えていないのか?


 グラントがその可能性に思い至ったところで――


「――さすが四天王。リッラの認識阻害魔法が見抜かれた」


 その少女がローブを剥ぎ取った。


「っ! 勇者か!?」


 飛び退きつつ剣を抜くグラント。戦闘準備が整っていない以上、まずは相手との距離を取る。戦闘での基本動作だったのだが……グラントは失策に気づく。彼が飛び退いたせいで、彼と勇者との間に住民が取り残されてしまったのだ。


 そう、グラントを慕い、近づいて来ていた魔族たちが。


 人間にとって、魔族とは敵。

 勇者にとって、魔族とは自らの力量(レベル)を上げるための糧でしかない。


 だというのに。

 勇者は、動かなかった。


 退避したグラントに刃が届かなくとも、『敵』である魔族は数人切り伏せることができたはずなのに。


「……ん」


 さっさと逃げろ、とばかりにアゴ先を動かす勇者。その目からは勇者としての使命感も、魔族に対する敵意も感じられない。


 しかし、住民たちは逃げなかった。

 恐怖で足がすくんだ者もいるだろう。まだ自体を理解できていない者もいるだろう。


 だが、多くの魔族の目に浮かんでいたのは勇者に対する敵意であった。


 魔族と人類の生存戦争。その戦況を一人でひっくり返してきた勇者が目の前にいるのだ。勇者を殺せずとも、身体を張って勇者の手を止め、足を止め、グラントの助けになろうと覚悟しているのだろう。


 確かに。ここで住民たちが肉弾となって勇者の手足を止めれば確実に勝てるはずだ。

 しかし、そんなことはグラントのプライドが許さなかった。


 目の前に勇者がいるというのに、一騎打ちではなく多対一で戦うなど。


 そしてなにより、守るべき民を戦わせるなど――領主失格だ。


「お前らぁ! さっさと逃げんかぁ!」


 大地を割らんとするかのような怒声に、魔族たちが明らかに動揺した。


「し、しかしグラント様……」


「言い訳は要らん! 戦士と戦士の戦いを、邪魔するつもりか!」


「い、いえ、ですが、」


「――邪魔なのだ! さっさと失せろ!」


 ともすれば薄情にも聞こえるグラントの発言。

 だが、彼を慕う住民たちはその本心を正確に読み取った。


「ご武運を!」


 振り向くことすらせず、一目散に城内へと退避する魔族たち。


 背中を向けた魔族たちを、やはり勇者は攻撃しなかった。おそらくどこかに勇者パーティーの面々も潜んでいて、彼らにやらせることもできたはずなのに。




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