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村人Aとヤンデレ勇者(♀)  作者: 九條葉月


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閑話 魔王と四天王

 




 四天王は急ぎ魔王城へと呼び出された。四天王の一角、土のデザイアが討伐されたことを受け、今度の方針を話し合うためだ。


 話し合いだけなら通信魔法でも十分なのだが、それでは人間側に傍受される危険性があった。……領土内においてそんな可能性を考慮しなければならないほど、魔王軍は人間共との戦いで押し込まれていたのだ。


 すべては、あの勇者のせいで。


「……忌々しいわね」


 四天王の一柱、風のフィーナは魔王城の廊下を歩きながら吐き捨てた。デザイアがやられてしまった以上、拠点となる城の造営などが大幅に遅延するだろう。そうなれば勇者だけでなく、普通の騎士団も脅威となってしまう。……今まで以上に苦戦することが目に見えていたのだ。


「――風のフィーナ、馳せ参じました」


 一礼してから会議室に入るフィーナ。部屋の中には巨大な長方形のテーブルが据え付けてあり、所定の位置に水のラキア、炎のグラント――そして、上座には魔王が鎮座していた。


 何とも美しい御方だ。


 戦場での活躍はほとんどないが、その美貌とカリスマによって魔族を率い、魔族の版図を歴代最大にまで押し広げた『女傑』なのだ。


「魔王様。遅参しましたこと、まことに申し開きのしようもございません」


 フィーナが床に両膝を突いて遅刻を詫びると、


「全くだ! 魔王様を待たせるなど万死に値する!」


 そう怒鳴ったのは四天王の一人、炎のグラント。戦うことしか能のない男だ。


「……うるさいわね。私は今魔王様に謝罪しているの。そんなことも分からないの?」


「なんだと!? 遅れた分際で偉そうな口を!」


「仕方ないでしょう? 私の陣地は一番遠いのだから。それとも、その小さな脳みそでは距離の概念も理解できないのかしら?」


「貴様!」


 激高したグラントが自らの手のひらに炎を出現させたところで――


「――まぁ、落ち着きなさい」


 魔王の落ち着き払った声が会議室に響き渡った。


「ははっ!」


「騒ぎ立ててしまいました! 真に申し訳ございません!」


 フィーナだけでなく先ほどまで激高していたグラントまでもが床に両膝を突き、魔王に対して謝罪した。


 これだ。

 これこそが魔王の恐ろしさだ。


 正直言えば、力だけで考えれば魔王はグラントに劣るし、もしかしたらフィーナやラキアよりも弱いかもしれない。――だが、それでもなお四天王を心酔させてしまう『何か』が魔王にはあるのだ。


 魔族は四天王になるとき『魔石』を分け与えられるので、その影響もあるかもしれない。が、やはりそれだけではないとフィーナもグラントも考えていた。これこそが『人徳』というものであろうと。


「まぁ、まぁ、とりあえず座ってほしい」


 魔王が少し困ったような声を出し、


「ハッ!」


「有難き幸せ!」


 グラントとフィーナは床から立ち上がり、所定の席に着いた。


「さて。キミたちも知っての通りデザイアがやられてしまった」


 悲しげな顔をする魔王。なんという優しい女性だろうかとフィーナは感激に打ち震える。勇者に敗北したデザイアなど四天王の面汚しであると口汚く罵ってもいいはずなのに。


 おそらくは死者に対する侮辱を避けたのと、デザイアのこれまでの貢献を考えてあのような態度を取っておられるのだろう。――死してなお侮辱せず、貢献を評価する。これもまた魔王様が慕われる理由かとフィーナが感心していると、


「何とも情けない! しょせんは四天王最弱の男か!」


 空気の読めないバカ――いや、グラントが吐き捨てた。魔王様の深遠なるお考えを理解できないとは、しょせんは力だけで四天王の地位に上り詰めた男かとフィーナは心底呆れてしまう。


「グラント、死んだ者をそこまで悪く言っちゃいけないよ」


「ハッ! 申し訳ございません!」


 再び床に膝をつくグラントであった。


「さて、デザイアがやられてしまったことで、今後の戦いは厳しいものとなるだろう」


「お任せください! 俺がデザイアの分も働きますので!」


「うん、期待しているよ。……さて。それはともかく戦況の確認だ。どうやらレイタス王国が騎士団を大規模に動かすらしい」


 レイタス王国。


 勇者の祖国であり、土のデザイアの陣地に最も近い国だ。おそらくはデザイアがいなくなった隙を突き、魔王国の一角を崩すつもりなのだろう。


「なんと! では、俺がすぐに軍勢を動かしましょう!」


 勢いよく立ち上がるグラントに、魔王が待ったを掛ける。


「いや、それはマズい。レイタス王国の動きに呼応してグラントが軍勢を動かせば、今度はミルテイン公国が攻め込んでくるだろう」


「ぬぅ! なんと卑劣な! しょせんは劣等種か!」


 ミルテイン公国はグラントの領地に隣接しているので、好機とみれば攻め込んでくるだろう。それに対応するためには、グラントは自らの陣地に留まり睨みをきかせなければならない。


 同じ理由で、それぞれ別の国と領地を接しているフィーナとラキアも動けない。ここでデザイアが健在であれば援軍を期待できたのだが……。


「仕方ないので、レイタス王国の騎士団は私が受け持とうと思う。デザイアの城は破壊されてしまったようだが、まぁ何とかなるはずさ」


 魔王の発言を受け、四天王の中に動揺が広がった。


「そんな!」


「お待ちください!」


「魔王様が戦うなど!」


 魔王自身の戦闘力は低い。それを分かっているからこその進言であった。が、魔王は考えを変える様子はなさそうだ。


「大丈夫。確かに私は弱いが、弱い者には弱い者なりの戦い方があるからね」


「しかしっ!」


「――それとも、私のことが信じられないのかな?」


「っ! いえ! 失礼いたしました! 魔王様のお考えに間違いなどありません!」


 グラントが三度(みたび)床に膝を突いたことで、魔王自らの出陣は決まったのだった。



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