神経図太い
防犯目的の魔導具とはいえ、発動条件が分からなければ危なくて設置しておけない。しかも中身は攻撃用だという。
というわけで、僕が魔導具の発動条件を聞き出そうとしていると、
「――はっはぁ! 金を出しな!」
いきなり店内に押し入ってきた男性二人組が、そんな大声を出した。
え? 強盗?
防犯用の魔導具は発動してないけど? 師匠、あんなに自信満々だったのに……。
押し入ってきたのは痩せぎすな男性と、ガタイの良い男性だった。
痩せぎすの男性は店内を見渡しているので警戒中か、金目のものを物色している感じかな?
ガタイのいい方は大振りのナイフを握りしめ、カウンター越しに僕へ刃先を向けている。
おー、すごい。あのナイフ、かなり質がいい。この店で売るなら20万ってところかな? ナイフとしては破格のお値段だ。もちろん買い取り価格はもうちょっと低くなるけれど。
「いらっしゃいませ。買い取りですか?」
「は? ……ふざけるな! これのどこが買い取り依頼に見えるってんだ!?」
「あ、すみません。かなり質のいいナイフだったもので」
「……へっ、よく分かってるじゃねぇか。そうよこれは俺が数々の冒険を共にした――」
ガタイの良い男性がなにやら語り始めて、
「あ、兄貴、今は自慢話している場合じゃねぇっすぜ」
痩せぎすな男性が困った様子で真っ当な指摘をする。……いや強盗行為を急がせるのは真っ当じゃないかな?
「おっとそうだった。へっ、ガキ! 死にたくないなら金を出しな!」
ナイフの刃を左右に揺らす男性。だけど、正直あまり怖くはない。ナイフなんかよりも魔物の牙や爪の方が遥かに恐ろしいし、威圧感も冒険者ギルドマスターの方が遥かに高いからだ。
「そんなこと言われましても……。今は引き継ぎ中で、お金なんてないんですよね」
「なにぃ?」
「そもそも、こんな寂れた店で強盗するくらいなら、まだ薬草採取でもやった方が儲かりますよ? ちょっと離れた場所でいいなら穴場を教えてあげてもいいですし……」
「てめぇ! 俺には薬草採取がお似合いだとでも言いたいのか!?」
「へ? いやいや、普通に考えれば……」
「普通に考える頭もないってか!? ――ふざけやがって!」
ガタイの言い男性が、ナイフを逆手に持ち替えて振りかぶった。脅しではない、明確な殺意だ。
ならばこちらとしても遠慮はしない。
「――雷よ、轟け!」
僕が初級攻撃魔法を放つと、
「ぐぁああああぁああっ!?」
ガタイのいい男性は激しく全身を痙攣させた。あれ? ずいぶんと効果が高いような? 魔物や魔族相手だと少し時間を稼げる程度の弱い魔法なのだけど……。
……あ、そうか。予想外の攻撃魔法だったから無防御で通っちゃったのかな? ちょっと可哀想だけど、殺意を見せたのはあっちなのだからしょうがないよね。
「おうおう、容赦のないことじゃ」
何とも落ち着いた様子の師匠だった。目の前でナイフを出されたり、初級攻撃魔法が放たれたのに。むしろ見世物を楽しんでいる風な?
「師匠って神経図太すぎません?」
「ナイフを突きつけられたり、振りかぶられたりしても落ち着き払っているお前に言われたくはないわ」
「そりゃあまぁ、サナと一緒に冒険していたので……」
僕と師匠がそんなやり取りをしていると、
「な、なんでこんな寂れた店に魔法使いがいるんだよ!?」
痩せぎすの男性が涙目になりながら出口へと走った。慌てふためいているのに、商品棚から例のルビーっぽい宝石を持ち逃げしようとしているのはさすがというか何というか……。
商品価値が分からないとはいえ、お店のものを盗られたなら見逃すわけにもいかない。しかも師匠の預かり物らしいし。というわけで、僕が再び攻撃魔法の呪文を唱えようとすると――
「――ぎゃああぁあああああぁああああああぁああっ!?」
落雷。とでも言うべき光が走り、痩せぎすの男性に直撃した。え? 僕まだ何もしていないんだけど?
「おうおう、容赦ないのぉ」
「いやいや、僕じゃないですよ?」
「ははっ、冗談じゃ。あれじゃよ、あれ」
師匠が指差す先にあったのは入り口に設置された防犯用魔導具。
「……防犯用にしては強力すぎません?」
あれ、たぶん中級攻撃魔法くらいの威力があるのでは?
「盗人に容赦はいらんじゃろう?」
ニヤリと笑う師匠だった。こわい。




