冒険者ギルドにて
サナたちが四天王の一人、『土のデザイア』との戦いに向かったあと。
僕はまず王都の冒険者ギルドに足を運んだ。勇者パーティーを抜ける報告をするためだ。
勇者パーティーは一応『国選』であり、国王陛下直属ということになっているけれど、さすがに陛下から直接指示をもらうというわけにもいかないので冒険者ギルドが間に入っているのだ。
必然的に、パーティーの仕組みも冒険者パーティーに準ずるものとなるし、人を増やしたり減らしたりするときはギルドに報告しなきゃいけないのだ。
王都の冒険者ギルドは三階建ての大きな建物で、一階が受付と食堂、二階と三階がギルド本部となっているらしい。
「――おう、ニキ。サナたちは一緒じゃないのか?」
ギルドに入るなり顔見知りの冒険者・ギースさんが声を掛けてくれたので、一応報告しておく。
「うん、ちょっと勇者パーティーを抜けることになって」
「「「「はぁ!?」」」」
ギースさんだけじゃなく、周囲にいた冒険者たちが驚愕の声を上げ、僕の周りに集まってきた。
「に、ニキ!? なにがあったんだ!?」
「まさか今流行りの追放か!?」
「いや! あの女がニキを逃がすはずがねぇ!」
「それもそうか!」
「むしろ邪魔者を始末する女だアレは!」
なんだか大騒ぎになっちゃったけど……それもそうかと僕は納得する。
だって勇者パーティーから一人抜けるとなれば、この中の誰かが補充で勇者パーティーに入れるかもしれないものね。冒険者からすれば最大級の立身出世。この機会は逃せないのだと思う。
「僕が抜けるから誰か一人補充で入れると思うよ?」
みんなからは「やったぜ!」みたいな反応が返ってくると思ったのだけど……。
「だ、誰が入るか!?」
「命が幾つあっても足りねぇよ!」
「しかもニキの代わりだと!? あの女絶対不機嫌じゃねぇか!」
「冗談じゃなく死ぬわ!」
「なんでドラゴンの巣に入らなきゃならねぇんだよ!?」
いやいやいや、大げさな。
「ドラゴンって……サナのこと? 確かにサナはドラゴンみたいに強いから誤解されがちだけど、とっても優しい女の子なんだよ?」
「「「「それはない」」」」
即座に否定するみんなだった。サナの優しさを理解しているのは僕だけか、と、ちょっと優越感に浸ってしまう。むふん。
「なんという鈍さ……」
「いや、あの女がニキにだけいい顔をしている可能性も……」
「ありうるな」
「でもやっぱり鈍いだけじゃね?」
「どっちにしろ、ニキじゃなきゃ無理だって」
「あの女が野放しになったらどうなることか……」
「とりあえず、冒険者ギルドマスター《ギルマス》に相談だな」
「くそっ、こんな時に出張とは……」
「なんとか思いとどまらせねぇと……」
「ギルマスから説得してくれれば……」
「ニキがやめたら、あの女に話を通せる人間がいなくなっちまう……」
「被害が……被害が……」
みんなが顔をつきあわせての密談(?)を始めてしまったので、先に用事を済ませてしまうことにする。
ギルドの受付に向かい、顔見知りがいたのでその人の元へ。
結構な大騒ぎになっていたのでたぶん聞こえていただろうけど、それはそれとして詳細を説明しないとね。
「エリーさん。僕、勇者パーティーを抜けたいんですけど……」
「――無理です!」
まだ年若いギルド受付嬢、エリーさんが全力で拒否してきた。まさかこんなに勢いよく断られるとは思わなかったので戸惑ってしまう。
「えっと、無理って、何でです?」
「問答無用です!」
「えぇ~?」
どういうことかなと首をかしげる僕。エリーさんがここまで強固に断るということは……自分の意思では決定できないとか?
「……あ、国選パーティーだからそんな簡単には決められないって感じですか?」
「っ!」
我が意を得たり、みたいな顔をするエリーさん。
「そう! そうなんです! いやー残念ですね! 国選だから最低でもギルマスに話を持って行ってくれませんと! もしかしたら国の方にも許可がいるかもしれません! なので私は何も聞きませんでした! 何の責任も負いません! よりにもよって私のところに話を持ってくるなんて!」
エリーさんってこんな人だったっけ? いつもはもっとこう寡黙で知的なお姉さんって感じだった気が。
「……あれ? でもエルガさんは簡単に抜けられませんでしたっけ?」
エルガさん。僕たちの旅の始まりから最近までサポートしてくれた大人だ。
勇者パーティーは意外と人の出入りが多い。どんどん激しくなる戦闘についていけなくなったり、好条件で余所に引き抜かれたりするからだ。なのでちょっと前に抜けたエルガさんも結構あっさりと許可が出ていたはず。
「その辺は! ちょっと分からないですね! なにせ私は平職員なので! ギルマス! ギルマスに聞いてください! いやー! 残念ですねぇ! ギルマスは今出張でしばらく帰ってはこない――」
「――俺がどうしたって?」
ぬっ、と。受付の奥から出てきたのは冒険者ギルドのマスター・デーニッツさんだ。




