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村人Aとヤンデレ勇者(♀)  作者: 九條葉月


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16/18


「で? なんでまたパーティーを抜けることにしたのじゃ?」


「はい。やはり僕の実力ではそろそろ戦いについて行けなくなりまして」


「何の冗談じゃ?」


「へ? 冗談?」


「……まぁ、よい。よくあの娘っ子が許したものではないか」


「はい。なんだか僕が屋敷でお出迎えしてくれるのが嬉しい、みたいなことを言われまして」


「おぬしは説明が下手すぎる。……じゃが、そういうことか……まーた勘違いを発動させておるのか……」


「勘違い?」


「……なんでもない」


 へっ、と小さく鼻を鳴らす師匠だった。この人って意味深な発言をする割にはそれを説明しようとしないんだよね。偏屈というか、面倒くさがり屋というか。


「ニキ。勇者パーティーを抜けるということは、新しく就職先を見つけるのじゃろう? どこか当てはあるのか?」


「いやぁ、全然ですね。デーニッツさんは冒険者ギルドで鑑定士をやらないかと誘ってくれていますけど、とりあえずギルドハウスの大掃除と挨拶回りをしてからお返事をしようかと」


「あの筋肉バカ、さっそく粉をかけてきおったか」


「粉?」


「……ニキは何かやりたい仕事はあるのか?」


「仕事、ですか。師匠には笑われるかもしれないですけど……なにか、お店屋さんをしたいです」


「お店屋さん?」


「具体的にはなにも決めていないんですけど――サナが帰ってきたとき、笑顔でお出迎えできるような。そんなお店をやりたいんです」


「ほぉ、それはまた、若いってのはいいのぉ。儂らの世代じゃ女が外で稼いでくるなんてあり得なかったが……これが時代か……」


 クククッと喉を鳴らす師匠だった。


「しかし『お店屋さん』ってのは具体性がないのぉ。何かやりたい店はないのか?」


「うーん、驚くほどに何もないんですよね。僕ができるお店とすれば……食堂か鑑定所くらいでしょうか? お掃除屋さん、なんてものはないですし」


 メイドさんなら屋敷の掃除とか洗濯が仕事になるけど、僕は男だしなぁ。


 食堂だと親爺さんたちのお店の商売敵になっちゃうから、ここからもっと離れた場所にしないとね。


 あとは、鑑定所。


 別の言い方をすれば古物商とか質屋になるのかな? 古い魔導具や宝石なんかを買い取って、別のお客さんに販売するお仕事となる。鑑定書を発行すること自体もお仕事になるけど、これは平民だと中々ねぇ。信用度がねぇ。


 特殊な例としては冒険者ギルドではあまり値段が付かない魔物の素材を冒険者から買い取ったりとか。……どちらにせよコネとか取引先が必要なので僕には難しいかな。


「……それなら丁度いい」


 師匠は手にしていた魔導具のパーツを机の上に置き、改めて僕の方を見た。


「ニキ。おぬしにこの店をやろう」


「お店を、ですか?」


「うむ。格安で売ってやろう」


「な、なんでいきなりそんな話に?」


「儂も歳じゃからな。子供もいないし、そろそろ『次』を考えないといけないのじゃよ」


「それは……。でも、なぜ僕に?」


「ハッ、ランクAの鑑定眼(アプレイゼル)持ち以上の適任者がいるとでも?」


 呆れた様子で鼻を鳴らされてしまった。結構いると思うけどなぁ。値下げ交渉してきたり買い取り価格交渉してくる人にも負けない、ガルスさんみたいなマッチョな人とか。


「そもそも、弟子に店を継がせるのなんて当たり前じゃろうが」


「言われてみれば、そうかもしれませんけど……」


 イマイチ納得し切れていない僕を置き去りにして、師匠はどんどん話を進めてしまう。


「おぬし、貯金はどれくらいある?」


「え? そうですね……たぶん500万くらいかと」


「ふむ、まるで足りんが、まぁいい。それで売ってやる。老後資金の足しくらいにはなるじゃろうからな」


「え? いいんですか? 500万って、この仮面も買えませんよね?」


 僕がカウンターに放置されていた仮面(なんか黒いモヤが立ちこめている)を指差すと、師匠はどこか嬉しそうに目を細めた。


「……それを見抜けるからこそ、任せたいのじゃよ。他の人間に任せてみろ、よく分からないものとしてテキトーな値段で売りさばくぞ?」


「うーん……」


 正直言うと僕にとっても『よく分からないもの』なんだけど……。それでも人によっては価値あるものだというのが鑑定眼(アプレイゼル)のおかげで分かるからなぁ。師匠の言うように適任なのだと思う。


 お店。

 冒険者ギルトからも近い。

 在庫がなくなれば僕好みのものを売ることだってできる。


 考えれば考えるほど、これ以上ない条件だと思う。弟子として何度もお店を手伝っているのでやり方は分かっているし。そもそも商品がある状態のお店を500万で買えることなんて今後絶対ないと思う。


「……僕でいいんですか?」


「当たり前じゃ。まったく、その自信のなさだけは欠点じゃな。鑑定結果には自信を持っていることは救いか」


「それはまぁ、僕の凡庸さと物の価値は関係ありませんし」


「――よう言った。なら、早速引き継ぎをしてしまうか」


 破顔一笑。

 あの偏屈な師匠が心底嬉しそうに笑う姿を見てしまうと、断るという選択肢が霧散してしまう僕だった。


「よろしくお願いします――あ、そうだ。引き継ぎ、また後日でいいですか?」


「む? 何かあるのか?」


「はい。まずはギルドからお金を下ろしてきませんと」


「支払いを済ませてから引き継ぎをしたいと? 真面目なヤツじゃな」


「真面目不真面目じゃなくて、当然のことです。契約はちゃんとしませんと。……それと、サラたちがまたすぐ討伐に出るかもしれないので、今からお弁当を作ってあげたくて」


「ほぅ、それは良いな。動機はともかく、世界を救うために戦ってくれておるのじゃ。そのくらいやってやらなければな。さっさと準備しにいくがよい」


「ありがとうございます」


 一礼してから僕はまず贖罪を受け取るために親爺さんの店を目指したのだった。


 ……しかし、『動機はともかく』ってどういうことだろう? サナ、純粋に世界を救うために頑張ってくれていると思うんだけどなぁ?



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