ニキとサナ
王都に戻り、ニキの元へ。
パーティーで借りている屋敷にいないことは分かる。ニキがどこにいるかくらい、分かるのだ。
ニキのいる場所――ニキ行きつけの食堂へ。親爺さんとお袋さんが営んでいる小さな食堂だ。
正直、両親に捨てられた私にとってこの『家族ごっこ』に何の意味があるのかは分からないけれど……。ニキが楽しそうなので、きっと良いことなのだと思う。だってニキが楽しそうなのだから良いことに決まっている。この世界はニキが好きなことが正義で、ニキが嫌いなことが悪なのだ。
「ニキ、ただいま」
「っ! おかえりサナ!」
眩しい。
眩しすぎる笑顔に目が潰れるかと思った。なんて可憐。なんて愛おしい。これでちゃんとカッコイイところもあるのだからもう完璧だ。完璧な人間だ。大聖教の語る神様とやらはきっとニキをモデルにしているに違いない。
「サナ。ケガはなかった? 大丈夫? 痛い思いしなかった?」
「……うん、平気。大丈夫」
戦果の確認ではなく、まず真っ先に私の心配をしてくれる。本当に優しい。本当にいい人だ。――誰にも渡したくない。
そもそも。今まで一緒に戦ってきたニキは『聖剣使い』の凄さをよく知っているはずなのだ。なのにニキは私の心配をしてくれる。私の力を過信するでもなく、私に全てを押しつけるでもなく、一人の女の子として扱ってくれる。
幸せだ。
なんだかくすぐったい。
ニキと一緒にいると、まるで、普通の女の子になれたような気すらして……。
「……サナ? やっぱりどこか痛いの?」
急に黙ってしまった私に、ニキが不安そうな顔をしたところで、
くぅ、っと。
私のお腹が音を立てた。
普通なら好きな人に聞かれたら恥ずかしがるのだろうけど、私もニキも、そんな地点はとうの昔に通り過ぎている。
「ニキ。お腹空いた」
「はいはい。ちょうど良かった。実は食べてみてもらいたいものがあったんだよね」
「食べてみてもらいたいもの?」
「うん、試作品でね。一応は軽食ってことになるのかな? 夕食はお祝いに豪勢なものを作るから、本格的なゴハンはその時にね」
「ん。軽食でも何でも、ニキが作ってくれたものなら食べる。ゴハンと一緒にニキニウムを摂取しないと」
「にきにうむ……?」
首をかしげるニキもとても可愛らしかった。
突拍子のない私の反応には慣れているのか、それ以上『ニキニウム』の深掘りはせずにニキが持ってきてくれたのは……何とも不思議な食べ物だった。
いや、私はこれを知っている。この世界にないはずの料理の名前は――
「サンドウィッチ?」
「あれ知っているの? ……あぁ、四天王を倒しに西の方に行ったんだっけ? サンドウィッチ伯爵も西の方の貴族だって言っていたなぁ」
ビックリさせようとしたんだけどなーという顔をするニキに少し申し訳なくなりつつも、やはり可愛らしいので大満足。
ニキが持ってきてくれたのはパンにベーコン、トマト、レタスが挟まれた彩りも豊かなものだった。
私はこの世界の食に関する興味がないというか、期待値が低い。
でも、分かる。
「こんなの、絶対美味しいに決まってる……っ!」
「えー? 嬉しいこと言ってくれるなぁ。まだ試作中だから味に自信はないけど……はい、じゃあ遠慮なくどうぞ」
ニキからサンドウィッチを受け取り、一口。
まず感じられたのは、焼きたてであろう白パンの芳醇な香り。黒パンは保存食のようなもので、こういう焼きたての香りとは無縁なんだよね。
そして次に感じられたのはベーコンの塩気。こちらも保存食という扱いなので塩がかなり効いている……のだけど、その塩気をうまい具合にレタスが受け止めていた。
最後に追い打ちを掛けてくるのがトマトの酸味と、僅かな甘み。
「美味しい!」
普段の私はクール系のキャラであるはずだけど、そんなものは忘却の彼方に放り投げて感嘆するのだった。試作品とは思えない、毎日だって食べたい味だ。
いや、ニキの料理なら何であろうが毎日食べたいんだけどね。
「――ニキ。私のために毎日サンドウィッチを作って」
と、私としてはかなり本気のプロポーズだったのだけど。
「毎日だとさすがに飽きるんじゃない?」
何とも鈍いニキだった。そういうところも素敵だ。




