閑話 土のデザイア討伐・2
玉座の間では、いかにも研究者然とした男がサナたちを出迎えた。
玉座。とはいえ、四天王は魔王に仕える身であるからか玉座に座っていることはなかったが。
魔王軍四天王の一人、土のデザイア。
よれよれの白衣に、フレームが少し歪んだ眼鏡。白いものが混じり始めたボサボサの髪……。種族が何かは分からないが、あるいは純然な『魔族』というものなのかもしれない。
「――ふははっ! よくぞここまでたどり着いたな勇者一行よ!」
研究者然とした見た目とは裏腹に、なんともハイテンションにサナたちを出迎えたデザイアであった。いや、これはこれでマッドサイエンティストっぽくはあるかもしれない。
「何ともご足労なことだが――キミたちの旅は、ここで終わりだ」
デザイアが指を鳴らすと、玉座の壁が崩れ、一瞬で再構成。頑丈そうな金属鎧を身に纏ったゴーレムに錬成され直した。
石造りの壁を崩し、ゴーレムにするだけでも非常識だというのに、金属製の鎧まで装備させている。どういう理屈かまるで分からないが、これが土魔法を極めたというデザイアの実力かとガルスは冷や汗を流した。
しかし。
「――邪魔」
サナが聖剣を振るうと、ゴーレムはあっさりと両断され、土塊になってしまった。
だが、頼りのゴーレムが破壊されたというのに、デザイアに慌てた様子はない。
「ほぅ! 見事な剣だ! ぜひ欲しい! 私が研究し尽くそうではないか!」
高笑いをしたデザイアが再び指を鳴らすと、玉座の壁がさらに崩れ、再構成――今度は、10体ものゴーレムが錬成された。
「……めんどう」
サナが聖剣を振り、即座に三体のゴーレムが土に戻るが――今度はすぐに錬成され直され、戦線に復帰してくる。
忌々しげにガルスが叫ぶ。
「おいサナ! ゴーレムは核を破壊しなきゃ何度でも復活するぞ!」
最初のゴーレムは運良く一撃で核を破壊できたようだが、そんな偶然は連続しないようで、サナが倒してもすぐにゴーレムは復活してしまう。
ジリジリと。数の不利に負けて周囲を囲まれてしまうガルスたち。勝利を確信したデザイアの高笑いが不愉快だが、ここで怒りに身を任せても事態は好転しないとガルスは経験で知っている。
「ちっ、リッラ。ここは転移魔法で一旦撤退――」
ガルスがパーティーの魔法使い・リッラにそう提案しようとしたところで、
「お腹、すいた」
サナが聖剣の切っ先を天井に向けるように構えた。
「――敵味方識別」
サナの言葉に聖剣が反応する。
『敵味方識別完了。ガルス、リッラ、アイリスを味方と認識。それ以外の周辺完全破壊を実施する』
「お、おいサナ――!?」
ガルスが止めようと声を上げた瞬間。周囲が光に包まれた。
「バカな!? 味方がいるのに聖剣の力を解放しただと!? それに、これほどの『力』はデータにも――」
それが土のデザイアの断末魔となった。
周辺の完全破壊。
とはいえ聖剣も空気を読んだのか、デザイアとゴーレムたち倒せる程度の範囲だけが消滅していた。
ただし、空気を読んだことが良い結果に繋がるとは限らない。
「ぬあぁああぁあ!?」
周辺の消滅。それには当然建物を支える柱も含まれており。ぽっかりと支えを失った城は必然的に崩壊し、瓦礫がガルスたちに降り注いできた。
「す、結界展開っ!」
もはや半泣きになりながら勇者パーティーの聖職者・アイリスが防御結界を展開し――直後に瓦礫がガルスたちを生き埋めにした。
瓦礫程度で結界は壊れないと理解しながらも、頭上から大量の瓦礫が降り注ぐのはさすがに怖かったのかガルスは顔を青くし、リッラは泣きながらアイリスに抱きついていた。そのアイリスにしても平然を装っているが目には涙を浮かべている。
「……ん。邪魔」
サナが再び聖剣の力を解放し、瓦礫が完全消滅する。
結果だけ見れば何の犠牲もなくデザイアは跡形もなく消滅し、城も半壊した。結果だけ見れば。
「討伐完了。じゃあ私はニキのところに帰る」
瓦礫の上を軽々と移動しながら出口へと向かうサナ。
「お、おい! まだデザイアの死亡確認や周辺の魔族の掃討、あとは近くの領主にも報告しないと――」
ガルスの声が聞こえているのかいないのか。たぶん聞こえていないまま、頭の中をニキだけで満たしながら。サナは意気揚々と帰路についたのだった。
軽い足取りで愛する者の元へと帰る勇者を、ガルスたちは見守ることしかできない。
「……やっぱり、ニキがいないとダメだな」
「でも、討伐の速度は上がりましたよね」
「周りへの被害を取るか、早急な魔王討伐を取るか。ってところかしら?」
「……ぐむぅ」
悩ましげに唸るガルスだった。




