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村人Aとヤンデレ勇者(♀)  作者: 九條葉月


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第一話 勇者パーティー脱退


 ――五年前。僕の幼なじみは『勇者』に選ばれた。


 サナは誰もが息を飲むような銀髪赤目の美少女で、なんだか不思議な雰囲気を纏っている子だったけど……それでも、僕にとっては普通の、何の力もない幼なじみだった。


 でも、聖剣に選ばれたからには『勇者』として旅に出なきゃいけなくて。か弱い10歳の少女でしかなかったサナを守るため、僕も魔王討伐の旅について行くことにしたのだ。


 一緒に行くと宣言した僕に対してサナは柔らかく微笑んでくれて。「ありがとう、ニキ。これからもよろしく。ずっと、ずっとね」という言葉までかけてくれた。


 単純な僕はあの笑顔と言葉を励みとして今まで頑張ってきたのだけど……もう限界だった。


 最初の頃はまだ良かった。

 僕は少し魔法が使えたし、珍しいスキル『鑑定眼(アプレイゼル)』も持っていたから役に立てたのだ。


 まだレベルの低かったサナの危機を魔法で救ったことがあるし、鑑定眼(アプレイゼル)のおかげで質の悪い商品を見抜いたり、せっかく集めた素材を買い叩かれるのを防いだこともある。


 だけど、僕はしょせん『平凡な村人』でしかなくて。


 サナと並んで戦えるような力も、戦況をひっくり返せるような知謀もなく。そんな凡人でしかない僕が『勇者』であるサナと一緒にいようというのが間違いだったのだ。


 サナはどんどん強くなって。

 強い仲間もどんどん増えていって。


 僕の魔法は役に立たなくなり。『勇者』として名をあげたサナを騙そうとする人間もいなくなったし……サナたちにも知識が付いたから、どんな素材がどの程度で売れるのかも分かるようになった。


 まぁつまり、お荷物になったのだ。


 サナは優しいから、戦力外になった僕を追放することはできないと思う。


 だからこそ、僕が僕自身で決着を付けなければいけなかった。


「――というわけで」


 王都における拠点として使っている屋敷の一室で。集まった『勇者パーティー』のみんなに向けて僕は宣言した。


「もうすぐ四天王との戦いが始まるし、もう僕だと戦いについて行けないから、この辺でパーティーを抜けようと思うんだ」


 僕の言葉を聞いたみんなの反応は様々だった。驚いてくれたり、悲しそうな顔をしてくれたり、眉間に皺を寄せたり……。


 そんな中。

 幼なじみであるサナは――無反応だった。静かに目をつぶり、無言だった。


 え? どういうこと?

 いつも無表情な子だけど、こんな時まで?


 何の相談もしなかったから怒っちゃった? もしくは「やっと抜けるのか」と安心した? あるいはもう僕になんか興味がないとか……?


 幼なじみなのだから少しくらい引き留めてくれるかなぁと思っていた僕が密かに傷ついていると、筋骨隆々の青年がテーブルの上に身を乗り出した。


 このパーティの盾役(タンク)で、一番年上。何かと頼りになる兄貴分のガルスさんだ。


「ニキよぉ。本気なのか?」


「うん。やっぱり僕じゃ戦力にならないし……」


「いやまぁ確かに戦闘力だけ見れば劣るかもしれねぇが、パーティーってのは戦闘が全てじゃねぇ。むしろ戦闘をしていない時間の方が長い。――ニキはうちに必要な人間なんだ。考え直してはくれねぇか?」


「おぉ……」


 こんな役立たずの僕に対してなんて優しい言葉を。きっとパーティーを抜けたあとのことを心配してくれているに違いない。僕の実力では普通の冒険者として生きるのも難しいからね。


 いや、しかしダメだ。ガルスさんの優しさに甘えてしまってはいつまで経っても決断できないからね。ここは断固としてパーティーを抜けなくちゃ。


 と、僕が決意を新たにしていると。今まで目を閉じていたサナが、瞼を開いた。


 吸い込まれるような赤い瞳。

 輝く銀髪も相まって、お人形のように綺麗な子だ。


 勇者としての栄誉。そしてその美しさから、貴族や権力者からの求婚すらあるという、美少女。あと数年もすれば美人と呼ばれるようになるはず。


 僕の幼なじみ。

 僕は、結局、幼なじみ以上の関係にはなれない凡庸な男だった。


 勇者と、村人。

 世界を救うであろう英傑と、名すら残せずに死んでいく男。


 僕たちには、改めて、そんな線引きが必要なのだと思う。幼なじみだからといってこれ以上甘えるわけにはいかない。


 そんな僕の目をじっと見つめながら、サナは静かに問いかけてきた。


「ニキは、パーティーをやめたいの?」


 怒りも悲しみもない。普段通りの平坦な声。


「う、うん。そうなるね。やっぱり僕の実力じゃ――」


「分かった」


 僕の言い訳を最後まで聞くことなく、サナは頷いた。


 あまりにも簡単。


 あまりにも平然。


 あぁ、やはり弱すぎる僕は興味を失われていて。心の底では邪魔者扱いされていたに違いない。


 僕がいっそ清々しい気持ちになっていると……サナが腕を伸ばし、僕の手を掴んできた。


「話は分かった。つまりニキは――家庭に入りたいんだね?」


「……うん?」


 なんだって?


 首をかしげる僕に構うことなくサナがまくし立てる。無表情のままで。


「私が外でお金を稼いで、家に帰るとニキが『お帰りなさい』と出迎えてくれる。最高。がんばれる。超がんばれる。ちょっと魔王倒してくる」


 いつも通りの無表情のまま。にわかに立ち上がったサナを、ガルスさんたちが必死で止めようとする。


「お、おい待て!」


「そうですよいきなり魔王だなんて!」


「落ち着いて考え直しなさいな!」


 腰にしがみつくガルスさんたちを易々と引きずって外へ出ようとするサナ。


「に、ニキ! お前さんが抜けるとコイツを止められる奴がいなくなるんだが!?」


 ガルスさんの悲痛な叫びが部屋にこだました。大げさだなぁガルスさんは。サナはちゃんと説明すれば納得してくれる子だというのに。


 というわけで。僕はサナを説得することにした。


「まぁまぁ、サナ。いきなり魔王は危ないよ。まずは四天王を倒してからじゃないとね」


「……ん。それもそうだね」


 踵を返したサナはテーブルまで戻ってきた。ガルスさんたちを引きずったまま。


「じゃあ、ニキとの幸せな未来のために、まずは四天王を皆殺しにしてくる」


「みなごろ――う、うん。気をつけてね? ケガしちゃダメだよ? 僕は王都で待っているから」


「ん。すぐ帰ってくる。お帰りなさいのキスを所望」


「き、キスって」


 突然の冗談に顔が赤くなってしまう僕だった。また酒場あたりで誰かから変な知識を教えられたのかな? まったくもう僕だから冗談だと分かるけど、他の男の人は本気にしちゃうかもしれないからね。ちゃんと言い聞かせないと……。


「サナ。そういうこと、他の人に言っちゃダメだよ?」


「うん。分かってる。嫉妬するニキも可愛い」


「しっと……?」


 なんだか噛み合っていないような気がするけれど、まぁ、変な冗談を他の人に言わないならいいかと納得する僕だった。





 ズレにズレているニキとサナのやり取りを見つめながら。勇者パーティーのガルスたちは顔を見合わせながら深いため息をついた。


「……サナはストレートすぎるし、ニキは鈍すぎる」


「ですね。なんであの好意に気づかないのでしょうか?」


「サナちゃんが無表情だからじゃない? あるいはニキ君に自信がなさ過ぎるのか」


「……問題は、ニキがいないと俺たちがあの暴走娘を抑えなきゃいけねぇってことだ」


「え? 無理ですよ」


「そうね、無理よね」


「だが、ニキはやめる気満々だ」


「……実際、戦闘時は危ないというのは事実ですし」


「私みたいに回復魔法を使えるわけじゃないしねぇ。気持ちは分かるというか……」


「おう。なにより、本人がやめるって言っているのに無理やり引きずっていくのもなぁ……」


「ちょっと可哀想ですね」


「……私たちが頑張るしかなさそうね……」


 はぁあ、と。頭を抱えるガルスたちだった。





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