英雄の薬⑧
そんなこと思い出しながら席に着くと、すぐに店員さんが注文を取りにやってきた。
「ホットコーヒー2つ」
朝霧さんは何も言わず俺の分まで注文してくれたようだ。
わざわざ聞かなかったのは、俺を緊張させないようにするための優しさだろう。
「もう頼んじゃったけど、コーヒー飲めないなんてことないよね?」
店員さんが去った後で、少し眉間にしわを寄せて目を丸くし、おどけた調子で聞いてくれる。
「大丈夫です。コーヒーは昔から大好きなんです」
「そうなんだ、良かった。
ここは紅茶よりも、コーヒーの方が美味しいって評判だから、きっと気に行ってもらえると思うわ」
やっぱりこういうオシャレな所に来慣れている人は知識もある。
朝霧さんに任せておけば安心という意識が芽生え、この場所のこと以外の俺が抱えている問題についても、解決に導いてくれるような気がしてきた。
「それでね、さっきの続きなんだけど……」
コーヒーが運ばれてきて一口啜り、頃合いを見計らって朝霧さんは切り出した。
「あなたのお父さんである斎藤課長が部屋から出てこないようになった、ってゆーのは分かったわ。
『ネトゲ廃人になる』だっけ。あの斎藤課長がそんなことするなんて、簡単には信じられないけど。
それが本当のことだとして、お母さんと妹さんが出て行ったのも本当のことだとして、一真君、原因は何だと思うの?
前からそんな兆候とかあったのかな?
会社での斎藤課長を見る限りでは、特に最近変わった様子もなかったんだけどね」
「分かりません。
本当に何年もひきこもってたんで、ここ最近も父さんと話をしたのなんていつ以来なのか覚えてもいません」




