英雄の薬⑦
10分程車を走らせただろうか、やがて俺達を乗せた車はモダンな看板の喫茶店の駐車場に乗り入れた。
オシャレな外観で女性に人気のありそうなお店だ。そして俺のこれまでの人生で一度も入ったことのない店だ。
車を降りて朝霧さんに促されるままに店内に入った。
やはり店内は女性が多めで、俺なんかは場違いな感じで肩身が狭い。
「何してるの? こっちよ」
場の雰囲気に気圧されて、ぼーっとしていると、先に席を取ってくれた朝霧さんがこちらに手招きしてくれた。
さすが社会人のお姉さん、頼りになる。
朝霧さんだけを頼りにテーブルへと向かう。まるで灯台の明かりだけを目印に進む初航海の船だ。
他人の視線に溺れそうになりながら、やっとの思いで朝霧さんの待つ席へとたどり着く。
そういえば、父さんと初めて海に行った時もこんな感じだったな、と昔の記憶をふっと思い出した。
小学校低学年くらいの頃、プールにも行ったことないのに、海に行きたいってお願いして、忙しい時期に無理に連れていってもらったっけ。
その癖、海に着いたら沢山の人にも、海にもびっくりしてしまって、早く帰りたいってわがまま言って、泣きそうになりながら泳いだなぁ。
母さんはすぐ半泣きになった俺を気遣って「もう帰ろっか」
って言ってくれたけど、恵は無邪気に砂遊びや水遊び楽しんでいたし、父さんは真剣に泳ぎを教えてやるって、俺を沖の方まで連れて行って、泳ぎ方を一対一で教えてくれたっけな。
その時沖で唯一頼りにできる父さんをめがけて一生懸命泳いで、辛くて泣きそうだったけど、あのおかげで泳ぎもだいぶ上手になったんだった。
今の朝霧さんとあの時の父さんが重なって、朝霧さんが余計頼もしく思えてくる。




