英雄の薬④
朝霧さんのつけている香水の匂いだろう。気になっておずおずと運転席の方を眺めると、朝霧さんが
「よろしくね」
と会釈しながら車を発進させた。
「とりあえずまっすぐ走るから、曲がり角の場所を教えてくれるかしら」
俺は黙ってうなずいた。
朝霧さんは大人の女性らしい黒の上下のスーツを着こなしており、スカートからのぞくほっそりとした足が眩しかった。
車はゆっくりとスピードを上げ、歩行者や街路樹を追い抜いていく。
やがて曲がるべき角に差し掛かった。
「あ、そこを左にお願いします」
乗ってからずっと何を言っていいか分からずに押し黙っていたが、流石に家まで案内するために乗ったのに、間違った道に案内する訳にはいかない。
「分かったわ。ここね」
車は左折し、細い路地に入る。
少し走った所で、朝霧さんはゆっくりと口を開いた。
「そんなに緊張しなくていいのよ、一真君。
今は大学生? それともどこかで働いているのかしら?」
朝霧さんは、開口一番俺の急所をえぐるような質問をしてきた。
「……あの、大学生じゃないです。
……働いてもないです」
顔が赤面して行くのを感じながらそう答える。声が知らず知らず上ずってしまう。
「そう。
じゃあ何もしていないニートってことかな?」
朝霧さんは少し考えてから、冗談めかして言った。でも目は真剣だったから頭の回転が速いのだろう。




