英雄の薬③
「斎藤課長にお話ししたいことがあってお家まで来たの。
お家すぐ近くかな?
もし良かったら車乗って案内してくれないかな?」
「そ、それは……」
突然の提案に言葉が詰る。
『父さんは部屋にひきこもっていて、ドアを開けてくれないんだ』
『いや、もしかしたらこの朝霧さんが来訪すれば、父さんは部屋から出て来てくれるかもしれないな』
『そもそもこの人信用していいのか?』
色々な考えが頭の中を駆け巡る。
初対面の女性の車に乗るなんて、一般的に考えたら危ないこともあるのだろうが、目の前で優しそうにほほ笑む女性を見ていると、信用して良い気がする。
「ねぇ。お願い。色々聞きたいこともあるのよ。
あなただって手紙のこととか知りたいんじゃないの?」
「……分かりました。」
朝霧さんの一言につい承諾してしまった。
確かに会社にあったという手紙の内容や、会社での父さんの状況について気にしていた部分もある。
そして、俺も誰かに自分の置かれている状況について相談したい気持ちもあった。
店長さんも優しそうな人だけれども、やっぱり年が離れていると、全部が全部信用できる気がしない。
一方朝霧さんなら年も近そうだし、女性だし、今回の事件の当事者でもあるし、信用できそうな気がした。
決して朝霧さんが美人だから、下心でついていくのではない、と自分に言い訳しながら俺は車に乗り込んだ。
会社の車らしく装飾は無く簡素だったが、入った瞬間芳香剤のメンソールの匂いがまずうっすらとし、席に座ると柑橘系の香りが隣から漂ってきた。




