きれいなニートの条件⑫
「数年ぶりに買い物に出てきたって言ったけど、一体どういうこと?」
店長は俺の質問には答えず、代わりに丁寧な問いかけを返した。俺のことを追及する言葉が続くと覚悟していたので、ひとまず安心する。店長は異常事態にも理解のある人のようで、少しうれしく感じた。
俺はここ数年ひきこもっていたこと、それから昨日、今日と起ったことを、言葉を探しながら、何回もつっかえ、言い間違えながら、しどろもどろに説明した。
自分で言うのもなんだが、かなり下手な説明だったと思う。
実際店長からも、
「それってどういう意味」
「もう一回教えて」
と何回も言われて説明し直した。
でも、状況が特殊だから、と言い訳したくなる俺もいる。
一通り説明をし終えると、店長は何かを考え込むように顎に手をあてたまま、明後日の方を向きしばらく黙りこんだ。
俺も、もう話すことがなかったので一緒に黙りこみ、しばらく無言の空間が出来あがった。
その後、店長がおもむろにこちらを振り返って、静かに口を開いた。
「君、一真君だっけ?
もし良かったらなんだけど、これからこのコンビニで働いてみない?」
一瞬何を言われたのか分からなくて目を白黒させる。
どういうことだ。
全く理解できない。
気のせいかもしれないが、真っ白な俺の頭に、俺と俺の家族を巻き込んだ新しいストーリーが始まる音楽が聞こえた気がした。
俺は今までずっとニートだった。
ニートは勉強も就労もしないからニートなんだ。
働いたらもうそれはニートではない。
別にニートに誇りをもっていた訳ではないけれども、まさか自分が働くなんてことは考えたことがなくて、そんな日が来るとは夢にも思っていなかった。
ニートには実はもう一つ意味がある。
綴りはNeatで一般的に使われるNeetとは違うけれども、日本人の発音だったら変わらない言葉だ。
意味は「小ぎれいな」とか「きれいな」とかそんな感じ。
俺は今日からNeetじゃなくてNeatを目指していこうかな。
『きれいなニート』それもそんなに悪くないじゃないか。
そんな皮肉を考えなければやっていけない程の混乱の中で、俺は店長の話の続きを聞いていた。




