プロローグ
!?
うまく聞き取れなかった。
いや、違う。
聞き取れなかった訳じゃない。
ドア越しではあるけど、聞こえないような声量じゃ無かった。
だから、聞き取れなかったんじゃない。
聞こえたけど理解できなかったんだ。
いや、それも的確な表現じゃない。
厳密にいうと、ありえない発言に、耳が、脳が拒否反応を起こしたんだ。
それはまるで沸騰したてのお茶が入ったやかんに、うっかり触れてしまった時の反射のように一瞬のうちに。
ドアを隔てているのに、俺の混乱を見透かしたかのように、父さんが続けた。
「父さんは日本一誇り高い戦士になるまで働く気ないから。一真もそのつもりでいてくれ」
そう言い残して父さんはドアの前から離れて行った。
ここですぐにドアを開けて、父さんを追いかけられるような性格なら、俺の人生はどれ程幸せだっただろう。意気地なしで弱虫の俺には到底たどり着けない背中が遠ざかっていく、イメージだけで。
考えても分からない事が頭の中をグルグルと回り、ただ時間だけが過ぎて行った。
リアルの時間もネットの時間も。
ただ、父さんが真剣な口調で言い残した言葉だけが耳から離れなかった。
父さんは確かにこう言った。
「父さん今日からネトゲ廃人になるから……」
なんだよ、それ。
ネトゲ廃人ってなんだよ。




