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リンと呼ばれた風鈴の願い

 今にも雪が舞ってきそうな曇天の寒空が頭上に広がっている。今年一番の冷え込みのせいか、商店が建ち並ぶ大通りは昼間なのに人通りが少ない。身体の芯から冷えきる木枯らしが、閑古鳥の鳴いている店を嘲笑うかのように吹きすさぶ。

 紺色の外套に身を包んだざんぎり頭の青年が足を止め、両腕をさすった。


 チリン、リン


 青年の動作に連動して、なんとも季節外れな耳に心地よい鈴の音が鳴る。外套の袖から音の正体であるビロード製の風鈴を取り出した青年は、困った顔でため息をついた。

 談笑しながら足早に歩く女学生たちが、すれ違いざまに不思議そうな顔で見てくる。青年は風鈴を袖内にしまうと、見た目は役者のようだと褒められる整った顔立ちで愛想笑いを浮かべた。女学生たちは頬を染め、くすくす笑い合いながら去っていった。


「こんな季節外れの物持ってたら笑うわな。音聞いてるだけで寒くなる」


チリン、チリン!


ひとりでに風鈴が袖内から飛び出てきて、怒っているかのように左右に大きく揺れた。青年は慌てて風鈴を掴むと、目の前にあるガラス細工の大店を見上げて囁いた。


「ほら、ここだよ」


風鈴が震えるように小さな音を立てると、手から放れて宙に浮いた。一瞬強い光が放たれる。眩しさに目を閉じた青年が目を開けると、目の前には金魚柄の着物に身を包んだ少女が立っていた。


「若、ありがとう」


笑みを浮かべる少女に、若と呼ばれた青年は懐から蛇腹便箋を取り出し、少女に手渡した。表には拙い文字で『りんたろう様 リンと呼ばれた風鈴より』と書かれている。それを大事そうに抱えて、少女は店の中に入っていった。



 三代続く質屋の若旦那でありながら、人ならざるものが見え、たまにこうしてあやかしから相談を受けることがある。

 人とは時の流れが違うあやかしに、会いたい人はこの世にいないことを伝えることは心苦しい。それでもリンは受け入れ、文字を教えてあげると、自ら手紙をしたためた。子孫の営む店で奉公人として働いて恩返しをしたい、店を探しだして欲しいと言われ、ようやく見つけることができたのだ。

 

 だが、果たして付喪神として生まれて間もないあやかしが、人に紛れて暮らしていけるだろうか。


 ふと空を見上げると、黒雲とは対照的な真っ白な雪がハラハラと舞い降りてきた。


「雪見酒でもするかな」


ひとりごちると、両腕をさすりながら歩き出す。チリンと風鈴の音が聞こえた気がするが、振り向かずに足早に大通りを去っていった。

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