表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

02 蝶よ猫よ①

 朝、目が覚めて真っ先にする事は、スマホのホームディスプレイで日付と時間を確認する事だ。


 9月25日 水曜日 07:42


 よし、今回もループしてる。


 そういえば、ループするようになってから、夜眠っている間に夢を見なくなった。中途覚醒と早朝覚醒もなくなった。うんうん、いい事だ。


 朝ご飯……ループが始まってからは、火曜日の残り物だったり、レトルトカレーや冷凍のパスタなんかを食べているけど、流石にちょっと飽きてきたな。新たに買っておいても、朝起きたらリセットされちゃうから意味ないし。次回は何処かの店にモーニングを食べに行こうかな。


 食事が終わると、すぐに会社へ欠勤連絡した。今回は今までのループで一番遅く起きたから、電話するのもちょっと遅くなった。


「あら、具合が悪いの? わかった、伝えておく。お大事にね」


 電話に出たのは、今回が初の総務課のベテラン女性。ちなみに今までは、わたしの直属の男性上司が出る事が多かった。


「はい、すみませんがお願いします。では失礼します……」


 ちょっと弱々しい感じで喋ってみたんだけど、大袈裟だったかな? ま、どうでもいいや。


 そんな事よりも今日は……猫カフェだ猫カフェ!




 京急線川崎駅から徒歩約一〇分。


 イタリアの丘の上の街(ヒルタウン)をモチーフにした複合商業施設〈LA CITTADELLAチッタデッラ〉の横道を抜け、辿り着いた小さなビルの一室。


〈譲渡型保護猫カフェ にゃんぱら〉──ガラス扉にカッティングシートでデザインされている店名と、優雅に歩く猫と足跡のシルエット。うへへへ、テンション上がってきた!


「いらっしゃいませ!」


 わたしが店に入ると、レジカウンターから、にこやかな女性店員が出て来た。


「今までに当店のご利用はございますか?」


「いえ、初めてです」


 鍵を渡され、バッグを個別のロッカーに入れる。おっと、スマホだけは忘れずに出しておかなきゃね。


「では、ルールやコースの説明をさせていただきますね」


 店員の説明が終わると、わたしは一時間コースを選んだ。フリータイムと迷ったんだけど、せっかくだから川崎駅周辺の色んな場所も見て回りたかった。


 レジの正面の壁際にはドリンクコーナー。そしてその右隣の〝ふれあいルーム〟に猫ちゃんたちがいるのが、出入口のガラス扉から見える。先客も三人くらいかな。わたしが来たのは開店から一〇分足らずだったのに……早いな。


 喉は渇いていないし、早く猫ちゃんたちに会いたい。ドリンクは後回しにして、しっかり手を洗ってから、いざ、ふれあいルームへ!


 わたしが扉を開けると、先客たち──四人いた──と、数匹の猫たちが一斉にこちらを向いた。何帖分あるのだろうか、決して広くはない室内全体にカーペットが敷かれ、壁際にはキャットタワーやケージ、天井にはキャットウォークもある。


 扉を閉めて完全に室内に入り、さてどうしようかなと考えていたら。

 

「ニャア」


 扉の近くにいた黒白のぶち猫ちゃんが、挨拶に来てくれた! 立っているわたしの足元に体を擦り付けてきたので、わたしもしゃがんで体を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めている。


「えへへへへっ! いい子だねぇ~!」


 ほんと可愛いなもう! 写真も撮っちゃうぞ!


 クッションやキャットタワーで寛いでいる猫たちが多い。わたしが舌を鳴らして反応する子としない子がいるけど、構わずどんどん写真を撮っちゃう。


 でも……次の朝には消えちゃうんだよね。ああ残念。


 お、壁のボードに、この店の猫たちの写真とプロフィールが掲載されている。どれどれ……。


 最初に挨拶に来てくれた子は……あった。名前は〝きらり〟で、三歳のメス。人懐っこくて好奇心旺盛、遊ぶのも食べるのも大好き。


 クッションの子は茶トラ猫だったから……あら、茶トラだけでも四匹いる。どの子だろ? ボードの写真と猫の方を何度も交互に見て確認する。ピンクの首輪をしてるよな……ああ、あの右端の一番上の写真の〝いろは〟っていうメスか。人見知りだけど、慣れると所謂へそ天を披露してくれるらしい。


 壁に背を付けて座っているおじさんが撫でている子は……うわぁ、黒猫は六匹。いや全然どの子かわかんないんだけど!


 ……何回か来ないと覚えられないなこれ。


 一旦諦めて、空いているスペースに腰を下ろす。室内に流れるオルゴールのBGMは、海外の有名なアニメ映画の主題歌だ。ゆったりとしたテンポだし、お客さんも猫たちも静かだから、眠くなってきそう……。

 

「あら(レン)、起きたの?」


 室内の一番奥にいる白髪の女性客──上品な雰囲気でマダムって感じ──の声。どうやら、すぐ隣のキャットタワーのてっぺんから降りたキジトラの事を言っているらしい。


 キジトラはおばさまを一瞥する事もなく、近くに座る大学生くらいの女性二人の横を通ると……わたしの所へ来た!


「あらら~っ、こんにちは~っ」


 我ながら気持ち悪いデレデレ声……。


 あ、おじさんが撫でていた黒猫が起き上がった。しかもこの子までこっちに来る! やだもうわたしったら、意外と猫にはモテるんじゃない? 人間はさっぱりなのに! HAHAHA!!


 と思いきや、黒猫はキジトラに体を寄せ、頭をスリスリし始めた。キジトラの方もそれに応え、「ニャウ~ン」なんて甘えた声を出している。か、可愛過ぎるよあんたたち……!


「ラブラブだねぇ~きみたち」


 改めて黒猫の名前を探そうと、ボードに目をやる。

 

「その子は夏時(ナツトキ)よ」


 マダムだった。わたしと目が合うと、やっぱり上品な微笑み。


「黒猫は夏時、キジトラは蓮。二匹とも一〇歳で、小さい頃からずっと仲良しなの」


「へえ~! もう熟年カップルって感じですかね」


「そうなの。両方オスなんだけれどね」


「両方オス」


 その後も様々な猫たちに癒されながら穏やかな時間を過ごし、あっという間に残り五分。ジュースを飲んでないし、そろそろ出よう。


「じゃあね~」


 クッションからカーペットに移動し、こちらに背を向けて寝そべっている()()()の前に回り込んで声を掛けると──いろはは目を見開き、垂直ジャンプ! かなりビックリさせてしまったらしく、奥の方に逃げてしまった……。


「ご、ごめんね!?」


 マダムやおじさん、若い女性二人は大笑い。


「本当にビックリしたのね!」


「跳んだなぁ~」


「写真撮りたかったぁ~!」


「きゅうりに驚いてああいう反応する猫もいますよね」


 ああ、なるほど確かに……って──……


「わたしはきゅうりかい……」


 わたしがぼやくと、また笑いが起こったのだった。




 布団を敷き、その上に座ると、猫ちゃんたちの写真を眺めながら一日を振り返る。


 猫って最高だよね。犬もフレンドリーだから好きだけど、やっぱ猫よ猫。〈にゃんぱら〉を出た後は〈LA CITTADELLA〉やその他の商業施設を見て回ったけど、やっぱり猫ちゃんたちとの触れ合いが一番だった。


 一時間だけじゃ物足りなかったな。次はフリータイムか、せめて二時間コース以上にしよう。んで、帰る時はいろはをビックリさせないようにしなきゃね。


 そう……次。

  

 次ももう一回、猫ちゃんたちに会いに行くぞー!


 と、脳内で決意表明すると、わたしは布団に入ったのだった。




 猫の夢でも見られればいいなと思っていたけど、やっぱり夢は見なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ