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04 ミランダが視た未来

草薙(くさなぎ)です、おはようございます。すみません、体調が悪いので今日一日お休みさせてください。いえ、昨日のは関係……あります。ええ、はい、どうもすみませんがよろしくお願いします。はい。失礼致します」


 よし、休みの連絡OK! 今日は何処に出掛けようかな~。


 ええ、朝起きたらまたも九月最後の水曜日でしたとも! やったね!


 ……何でだろう。昨日池袋に出掛けた時、同じ一日が繰り返されている事に気付いていた人は、多分いなかった。今日もまた展望台には入れないし、アンチョコ君はベリーちゃんをうんざりさせるのだろう。


 わたしだけ、何で? 


 明日を迎えたくない、今日という日がずっと繰り返されればと願ったから? それだけであっさりと? というか、同じ願いを持つ人間は、わたし以外にも絶対存在してるよね。探せば見付かるのかな、タイムループに気付いている人間が……。


 ま、とりあえず疑問は隅に置いといて……今日を楽しむ事を考えなきゃね!


 で、何処いこう。何しよう。




「いらっしゃいませ」 


 ガラスの扉を開けて入って来たわたしを、落ち着いたオルゴールのBGMと、小柄な受付の女性が出迎えた。


「あの、予約してないんですけど今からいいですか?」


「大丈夫ですよ! 先生はお決まりですか?」


「えーと、もし空いていたら、ミランダ川中(かわなか)さんをお願いしたいのですが」


「ミランダ先生でしたら、今なら空いております」


 お、ラッキー!


「ただ、一二時から予約が入っているので、最大でも二〇分までとなりますがよろしいですか?」


「はい、大丈夫です」


「では、お呼びしますのでお掛けになって少々お待ちください」


「はーい」


 言われた通り、受付の正面にあるソファに腰を下ろす。平日だし、開店からそんなに経っていないからか、他に客はいない。


 病院に来ているのかって?


 正解は──


「お待たせ致しました。一番の部屋にお入りください」


「はーい」


 受付の奥の、一番から五番まで割り振られた個室の方へと移動する。各個室の出入口はドアではなく黒いカーテンになっていて、わたしが呼ばれた部屋は一番右端だ。


「失礼します」


 カーテンを開いて狭い個室に入ると、真ん中に小さいテーブルを挟んで、壁側とこちら側に椅子が一つずつ。壁紙にはお目当ての女性──ミランダ川中が座っている。


「はい、こんにちは。どうぞお座りください」


 年齢は四〇代半ばか後半くらい。HP(ホームページ)に載っていた写真の通り、化粧が濃くて、長い髪は真っ金金。ベテランの風格が漂っている気がするのは、割と体格がいいのと、アイラインがっつりで目力が半端なく強いからかな。


「よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。初めてのお客様ですよね。占い師のミランダ川中です」


 そう、わたしが来たのは占い店! 


 ぶっちゃけると、占いはほとんど信じてない。子供の頃は魔法や宇宙人の存在も含めて結構信じてたけど、年齢が上がるにつれてだんだん懐疑的になってきて──ちなみに幽霊は割と信じてる──最近では興味すらなかった。


 じゃあ、何で来たのかって?


 わたしが九月最後の水曜日をループしちゃってる理由、あるいはヒントだけでもわからないかなー、なんて考えているうちに、特殊な能力、例えば霊能力なんかを持った人間ならわかるんじゃ……という結論に至った。


 で、スマホで色々と検索していたら、霊能力を売りにしている占い師が多かった。一体何割が本物なのかは知らないけどね。


 そこから更に、評判良さそうな占い師や店の口コミを探していると、渋谷駅から徒歩数分の雑居ビル内にある〈占い処 未来の樹〉に所属している、ミランダ川中の情報と的中エピソードがいくつも出てきた。


《ミランダ川中先生の霊視はガチ! 何度も視てもらってるけど、外れた事がマジで一度もない!》


《誰にも話していない自分だけの秘密を、ミランダ先生に言い当てられた!》


《他の占い師たちには問題ないと言われていた、マッチングアプリで知り合った彼。実は多額の借金と離婚歴が三回もあるのを隠されてたんですが、それを唯一見抜いてくださったのはミランダ先生だけでした!》


 などなど……。


 それらを読んでいるうちに、だんだん自分も占ってほしくなってきちゃって、予約なしで直接店舗まで来たってわけ。大人気占い師だから、いきなりは難しいかな? まあ駄目だったら他の占い師でもいいか……なんて考えてたけど、運が良かったみたい。


「先にこちらにお名前を、フルネームでお書きください」


 ミランダ川中に促され、小さなバインダーに挟まれた白い紙にボールペンで記載する。読めるとは思うけど、一応下の名前にはふりがなを振った。


 そういえば、テーブルの上にはメモとペンとキッチンタイマー、そして端に寄せられている閉じたノートPCくらいで、占い道具──タロットとか四柱推命のデータブックみたいなのとか──は、全然置いてない。


「マキナさん、ですね。ご丁寧に有難うございます。では、今日はどういった事を視ましょうか?」


「あー、えーと……」


 ここに来るまで迷ってたんだよね……「実はタイムループしてるんですけど、何でかわかりますか?」なんてストレートに聞いちゃうかどうか。でも、頭のイカれた迷惑客が来たと思われたくないから、やめよう。


「ちょっと将来が不安で。今、事務職やってるんですけど、結構不満があって。このまま変わり映えのない毎日を過ごしていていいのかな、って」


「転職をお考えですか? あるいは結婚など?」


「えーと、すいません、実はその辺も漠然としてて……どうするのがベストなのかなぁ、って」


「なるほど……わかりました」


 ミランダ川中は、わたしを見ながらゆっくり頷いた。


「では、霊視しますね。両手を軽く握ってもよろしいですか? その方がよりわかりやすいんです」


「大丈夫です」


 両手を差し出すと、大きな手で、壊れ物を取り扱うかのようにそっと握られた。


「では……」


 ミランダ川中は目を閉じ、俯いた。


 霊視って言うから、こっちをガン見しながら何か唱える姿を勝手に想像してたけど……静かだ。


 そのまま一分近くが経過し、わたしがちょっと不安になってきたところで、ミランダ川中はゆっくり顔を上げた。


「……はい。一通り確認させていただきました」


 さーて、何て言うかな?


「なかなか酷いですね、職場の女性」


 ……!?


「まず最初に見えたのは、会社のオフィスの一角でした。小柄で、長い茶髪を後ろで一つに纏めた女性が、麻希奈さんをキツい言い方で責めている姿が見えました」


 ……!!?


「身勝手な女性ですね。自分のミスには甘いのに、他人には厳しい。他の社員さんたちは口撃されるのが嫌で辞めてしまう。新しく入って来ても定着しない」


 ……!!!?


「麻希奈さんは今までずっと、誰よりも我慢していたけれど、とうとう怒りを爆発させてしまった──」


「っ、そう! そうなんですよ!!」


 声を上げずにはいられなかった。だって見事に当たってるんだもん!!


「自分にも至らないところがあるからって我慢してたんですけど、それでも毎日酷くて!! 何度か上司に注意してもらった事はあっても、本人が開き直っちゃって反省しないし!! 周りのいい人たちも被害に遭って、皆辞めていっちゃって!!」


 おっといけない、ついついヒートアップしてしまった……。声を落とさなきゃ。


「そ、その……実は今日、会社休んじゃったんです」


 もっとも〝今日〟という日は、これで三回目なんだけど……この人にはそこまで視えたのだろうか。


 ミランダ川中は微笑みながら頷いた。


「心配はいりませんよ。このトラブルで麻希奈さんが何かしらの責任を問われる事はないです。

 麻希奈さん、現在お付き合いされている方はいらっしゃいます?」


「いいえ」


 三〇年近く生きているけど、現在どころか過去にもいないんだよなーこれが。


「男性と一緒にいて、楽しそうにしている麻希奈さんの姿も見えましたよ。今のお仕事もやめているようでした」


 な、何と?


「男性は四〇代くらいで、モデルみたいにスラリとした体型の素敵な方でした」


 四〇代くらい? モデルみたいにスラリ……?


「身近にそういった方は?」


「全然」


 マジで覚えがないんだけど~!


「それじゃあ、これから出逢えますよ。それも、そんなに遠くないうちに」




 二〇分の占いが終わった後は〈渋谷ヒカリエ〉内でランチにして、それから渋谷周辺を見て回って原宿まで歩いた。涼しい風のおかげでいい運動になったな。


 結局、ミランダ川中からはループについて言及されなかった。でも、あの人の霊能力は嘘じゃないだろう。


 そうそう、余った時間で過去世も視てもらったんだけど……わたしって、どの人生でも生まれてきた家の人間と縁が薄くて、若い頃は孤独を感じやすかったんだって。


 見事に今世も同じだな……ははは。


 それでも年齢を重ねるうちに、本当に心許せるパートナーに出逢えて、幸せな人生を歩んでいったんだとか。


 今世でもそうなるといいなぁ……。




 で、ループの謎はわからないまま、いつも通り日が変わるまでに眠りについて──……




 はい、今日もまた九月二五日水曜日でーす!

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