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最高なのはいつだって九月最後の水曜日  作者: 園村マリノ
第四幕

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01 作戦会議

 カズキは自分の生い立ちや仲間たちとの出逢い、ループ中の様子、そして自分を除いた三人の男女が迎えた悲劇的な結末を、わたしに語ってくれた。


「あいつは特殊な存在となった俺が何をしようが、どの時代を動き回ろうが、何故か無関心だ。存在を認識してはいても特に意識はしていない……まあ、空気のようなものか。

 俺はあらゆる時代でルーパーを見付けては助け出そうとした。でも、一度も上手くいった試しがない。仲間の時と同じだ。何も出来ない。とんだ役立たずさ」


 この事実をどう受け止めたらいいんだろう。わたしなんかよりも心が強くて、優しくて、そして孤独なこの少年に、何て声を掛けたらいいんだろう。


「これで本当にわかっただろう。このままループを続ける事の危険性が。リセットされるからって、人が大勢死んでもいいわけがない」


「うん……」


 充分わかったよ。でもさ、肝心な問題が残ってるじゃん。


「どうやって〝時空の管理者〟を倒すの? 車に轢かれまくっても平気なんだよ、どう考えたって無理でしょ! 不死身みたいなものだよ!」


「不死身ではない。物理ダメージは人間と同じように受けるし、俺が取り込んだ奴の記憶によれば、これまでに何度か力尽きて消滅している。ただ、永い永い時間を掛けて、いずれは復活するようだが」


「ほぼ不死身じゃん。まあ、わたしたちがループから抜けちゃえば関係ないか」


 脳味噌をフル稼働したつもりで必死に考える。一度に大きなダメージを与えるか、小さなダメージでこつこつジワジワと体力を削っていくか。


 前者は大掛かりな罠を用意しないと難しいよな。でも、こつこつジワジワだと、こっちが向こうの存在を認識している事がバレちゃうし。


「うーん……」


「俺が囮になっている間、あんたはそれを無駄にせず確実にトドメを刺さなきゃならない」


「トドメはカズ君じゃ駄目なの?」


「俺で解決するならとっくにやっているさ」


「うーん……いや待って。囮なんて! いくらあの真っ黒くろすけがカズ君に興味ないからって、それは流石に危ないでしょ!」


「それ以外にやり方があるか?」


「サポートしてくれればそれでいいって」


「そのサポートが囮だ」


「駄・目・だっ・つーの!」


 一六歳かそこら──本当だったらおじさんだろうけど──の子に、そんな危ない役目を担わせるわけにはいかない。


 ずっと独りだった人に、もう怖い思いも、辛い思いもさせたくない。


「……何だよ……じゃあどう戦うつもりだ」


「た、戦わずして倒す! そう、例えば……自転車に乗って上手く線路まで誘導して、電車に轢かせてからトドメ!」


 お、これいいんじゃない? いや難易度高いか。映画なら上手くいきそうだけど。


「あんたまで轢かれたらどうする」


「じゃ、爆薬用意して広い所でドカーン!」


「どうやって用意するんだ」


「ネットで調べて造るしかないかな。何度かループしながら覚えて──」


「製造中にあんたの指なり顔なりが吹き飛ぶ様子が目に浮かぶ」


「ミランダ川中のライバル出現だね!」


 ええいもう、どうすりゃいいのさ!?


「ちょっと休憩……」


 何だか急激に疲れてきたので、その場に大の字で寝そべる。


「何か喰ったらどうだ。昼飯まだだろ」


「うーん、でも中途半端なんだよねー……」


 今から食べても、昼には遅過ぎるし夜には早過ぎる。あと一時間くらい我慢しよう……。


 ふと気付くと、カズキは一番近くの窓のカーテンを開いて、外を眺めていた。


「もう外暗くなってきたよね」


 わたしの独り言のような問いにカズキは答えず、わたしのすぐ隣にしゃがんだ。


「南の方に奴の姿が見えた」


「──っ!!?」


 慌てて飛び起きる。一瞬で変な汗が出てきて、心臓もバクバク。


「嘘でしょ! 今までこっち方面まで来た事なんてないはず──」


「落ち着け。まだ距離がある」


「もうバレてるんじゃない!?」


「正確な居場所を把握しているなら、とっくにここまで来ている」


 カズキは立ち上がった。


「今回はここまでだ。もう行くよ」


「ち、ちょっと!」


 わたしはほとんど無意識にカズキの腕を掴んでいた。


「一人にする気!?」


「俺と一緒にいる方が危険だ」


「作戦はどうするの」


「また次回だ。定期的に場所を変えながら話し合おう。次の朝一〇時頃、この部屋に来るからな」


「う、うん……わかった」


 わたしがゆっくり手を離すと、カズキは左手でわたしの肩に優しく触れた。


「いいか、もし奴がこの部屋に入ってくるような事があっても、絶対に動じるな。反応するな」


「難易度高過ぎ!」


「演技するんだ。得意じゃないのか」


「ええ? ……まあ高校時代は演劇部員だったけど、他の部活と掛け持ちだったし……」


「宗教勧誘は悪くなかったぞ」


「あはは、そうかな──」


 いやちょっと待て。


「カズ君……み、見てたの? わたしがクレーマーのおばさんとバトるとこを!?」


「あのループの何回か前にあんたの存在を察知してから、様子を伺っていたからな」


 堪え切れないと言わんばかりに口元を緩める、生意気なガキンチョ。


「なるほどねー……」


 わたしは部屋の隅の方に置きっぱなしにしてあった丸いクッションを両手に取ると、振り向きざまにカズキ目掛けて投げつけたのだった。




 陥没事故では四人が命を落とし、二〇人以上が重軽傷を負った。二一時になる少し前の報道番組では、未だに穴の中に取り残された人たちがいるとの事だった。


 眠りに就くまでの間、常に緊張して気が抜けなかった。


 幸いにも〝時空の管理者〟がわたしの部屋に不法侵入してくる事はなかった。建物の中にいると、わかり辛いのだろうか。


 ああ、これから毎回こんな思いをするのは嫌だし、わたしの居場所が完全にバレるのも時間の問題だろうな。いくら気付かないフリをすればいいったって、限度があるもの。


 うん、改めて決めた。ループは終わらせる。本来の時間軸、元の日常に戻るんだ。




 でもさ、本当にどうやって〝時空の管理者〟を倒せばいいの?

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