09 ループを知る者
ジョーさんとの出逢いの後も、わたしのループ生活は続いた。
千葉県の超大型アウトレットモールを一日掛けて歩いたり──散財した──、ゲーセンで可愛いぬいぐるみやクッションを狙ったりレースゲームにハマったり──やっぱり散財した──、カラオケで古今東西のアニソンをひたすら歌ったり──追加注文のフードで散財した──。
家でのんびり過ごした時もあれば、ループ中に行った場所の再訪もした。〈サンシャインシティ〉では、試しに以前とほとんど同じ行動を取ってみた。唯一大きく変えた点といえば、クレープをホットシュガーバターじゃなくてホットバナナ&ストロベリー&チョコスプレーにした事かな。
で、結果としては、以前と特に変わった出来事はなかった。ベリーちゃんとアンチョコ君の会話も、その後のベリーちゃんがわたしに語った内容も同じだった。
そりゃそうか、ループだもんね。わたしは気付いているから毎回違うように行動出来るけど、他の人たちにとっては、毎回初めての二〇二四年九月最後の水曜日なんだから。
正直に言おう。
最近のわたしは、ループ生活を楽しめくなってきている。
何かいい事とか楽しい事があっても、でも次の朝には……って考えてしまうと、素直に喜べない。逆に、わたし以外の誰かに良くない事があったら、それがずっと繰り返され続けるのかと思うと……何か申し訳ない。
新しい出逢い──男女問わず──も避けるようになった。せっかくいい人たちと知り合えても、最終的に覚えているのはわたしだけって、虚しいじゃない?
で、わたしが今いるのは〈臨港パーク〉の北側の端っこ。石段に腰を下ろして、心地好い風を全身で感じながら海をぼんやり……そう、ループする前と同じ。違う点といえば、今回は桜木町駅の方からではなく、横浜駅から歩いて来たって事だ。
誰から連絡が来るわけでもないのに、時々スマホにも目をやる。[MINE]のアプリ自体は残っているけど、ジョーさんとのやり取りや、わたしの写真は綺麗さっぱり、存在していない。
はあ……これから先、どうしようかな。
仕事しに、嫌な思いをしに行かなくていいのは最高だけど、流石にこのままだと何かわたしのメンタルがヤバそうだって事は自覚している。
そう、自覚してはいるけど、敢えて目を逸らしている。その逸らした先に、新しくて面白い事がないかな、と目玉をキョロキョロさせている……そんな感じ。
駄目だ、じっとしていると余計に気が滅入る。あーあ、参ったなもう。
自然と出て来たどデカサイズの溜め息とサヨナラすると、わたしは石段からゆっくり立ち上がった。
桜木町駅の方へ行こう。あ、何ならそのずっと先、中華街方面へ行ってもいいな。
石段を登らず、そのまま海のすぐ横の歩道を進む。
……ん? ……何だあれ。
二、三〇メートルくらい先に、何か妙なものが蠢いているのが見える。真っ黒くて、這うようにもぞもぞと動いてて……
何か気色悪い。でも凄く気になる。
わたしは歩速を落とさず、黒い妙なものに近付いてゆき──
「駄目だ」
五メートルも進まないうちに、いきなり後ろから肩を掴まれた。
「はい!?」
驚いたのと、邪魔されたという僅かな苛立ちで、棘が含まれた大きな声と共に振り返る。
「あれを見るな」
わたしを引き留めた相手は、学ランを着ている少年だった。意外! それは学生ッ!
「えーと……あれってのは──」
もう一回黒いやつを見ようとしたわたしの肩を、少年はさっきよりも強い力で掴んで止めた。
「な、何──」
「そう、あの黒いやつだ。絶対に見るな」
ええ……何よ急に。ていうか……
「どちら様?」
「カズキ」
カズキですか。じゃあカズ君とか呼ばれちゃってるんですかね。
「あんたは」
「え?」
「名前は」
こ……答えなきゃ駄目?
「……えーと……」
何なんだこの状況。というか本当誰?
助けを求めるように周りを見る。人は多いけど、誰もこちらを気に留めた様子はない。
「名乗らないなら〝ルーパー〟と呼ぶ」
ルーパー。
あの両生類の事を言っているわけじゃないよね。
「あんた、何回もループしてるだろ。二〇二四年九月二五日を」
もうね、心臓止まるんじゃないかってくらい驚いたよね。




