07 出逢いはアフタヌーンティー②
ケーキスタンドに残った最後のスイーツ──桃と薔薇のゼリー──を手に取り、ちょっと眺める。
ああ、これを食べたら夢から醒めちゃう……なんてね。
モンブラン、スモークサーモンのクレープ、チョコレートとラズベリーのムースなどなど……どれも本当に美味しかったな。甘いものだけじゃなくて、塩気のあるものも入っていたから、最後まで全然飽きなかった。
ちなみに紅茶はまだ二杯目、アッサムティー。色んな種類を試すつもりでいたのに、食べているうちに結構お腹膨れちゃった。
ゆっくり味わった桃と薔薇のゼリーも全て胃に収まり、三杯目の紅茶は諦めたら、ちょっと休憩。いやもう本当に朝ご飯少なめにしておいて良かった! ガッツリ食べていたら危ないところだったわ。
あ、斜め前のカップルが帰っていく。わたしより先に来ていたのに長かったな。制限時間ギリギリまで粘ったんだろうな。
「恐れ入ります。次でラストオーダーとなりますが、ドリンクのお代わりはいかがなさいますか?」
男性従業員が尋ねてくれたけど丁重にお断りしつつ、どのスイーツも本当に美味しかった事を伝えると、喜んでくれた。
へへへ、また来ようかな。お高いけど、朝になったらリセットされるんだから、ある意味無料食べ放題だよね。
「えー、それじゃあロイヤルミルクティーで」
「かしこまりました」
お隣さんがドリンクのおかわりを頼んだみたいだ。あ、もうほとんど食べ終わってる。早いな。ていうかわたしもロイヤルミルクティー飲みたかったな! うん、やっぱりまた来なきゃね。
あ、またお隣さんと目が合った。しかも微笑まれた……!
わたしも会釈。変な笑顔になってなきゃいいけど……。
数十分後、わたしは〈コンデッゾ東京〉を出ると、次の目的地──〈浜離宮恩賜庭園〉の目の前までやって来た。
〈浜離宮〉内は結構広いらしい。園内には海水を引き入れている池や鴨場──これも池の一種──、御茶屋が数箇所に、花畑などがあるみたい。今の時季、花畑ではキバナコスモスがそろそろ終わろうとして、少しずつピンク色のコスモスが増えていくんだとか。
あ、名前と概要はさっきエレベーターの中で調べたんだ。〝宮〟と〝庭園〟は合ってたでしょ?
入園料を払って、紙のマップを貰い、いざ。
さて、どっち方面に進もうかな。うん、確かに広そうだなこれ。素直にマップを見て……よし、まずは花畑の方に行ってみるか。
広いだけあって、目的地までそれなりに歩く。外国人観光客が多いなあ。だいたい皆、二人以上で来ているみたいだ。
あとね、緑が多い。あちこちに木々が生い茂って、芝生も敷き詰められている。これぞ都会のオアシスってやつだよね。本当に東京にいるのかなって思えてくるけど、公園の周囲に聳え立つビルの数々を目にすると現実に引き戻される。
お、見えて来たぞ花畑。全体的に黄色が多いから、あれがキバナコスモスだろうな。そろそろ終わるって聞いていたけど、まだまだいっぱい、いい感じに咲いてるじゃん。
周りの人たちがスマホやカメラを構えるのにつられて、わたしもスマホを取り出してしまった。撮ったところで、朝起きたら意味なくなるのにね。まあ、一枚くらいはいいか。
花畑を通り過ぎて橋を渡り、またしばらく歩き続けると、御茶屋発見。更にその先、池の中島にも、かなり良さげな御茶屋がある!
……流石に今はいいよね。ついさっきスイーツに紅茶を堪能したばかりなんだから。
……抹茶とかあるのかな? いやいや、とりあえず今はやめておこう。
一旦誘惑を跳ね除けて、マップを見ないで適当に歩き続けると、目の前に東京湾。公園外の向こう岸に水上バスが停まっている。何処ら辺に行くんだろう。お台場とか?
近くにベンチがあったから、小休憩。こうして座ってぼんやり海を眺めていると、潮の香りも相まってか〈臨港パーク〉を思い出した。また今度歩いてもいいかもしれない。でも、ループ前と同じような行動を取ったらループが終わっちゃった、なんて事になったら……嫌だよなあ……。
あれ、何かだんだん眠くなってきたかも。さっきお腹いっぱい食べたもんね。でもここで寝ちゃうのはちょっと……。よし、また歩くか。
ベンチから立ち上がって、何気なく元来た方に目をやったら、見覚えのある姿が。
「あ」
わたしと相手は、同時に同じ一文字を口に出していた。そしてそれが何だかおかしかったので、互いにちょっと笑ってしまった。
「どうも、さっき振りですね」
猫顔に眼鏡の男性は、気さくに声を掛けてきた。
「どうも~」
「お一人ですか?」
「はい」
「あー、良かったらちょっと一緒に歩きません?」
普段のわたしだったら、ちょっと引いちゃって警戒していたと思う。だからモテないのかな、ははは。
でも今は違った。引きも警戒もしなかった。
それどころか、何か結構嬉しかった。
「いいですよ」
〈サンゼロ〉でお隣さんだったこの男性──若井穣との出逢いは、わたしにとって、ちょっと特別なものになるのだった。




