05 クレイジータイムルーパー対ークレイジークレーマー②
またストックなくなってきたので、しばらく更新停止します。
「埒が明かないわ。店長は? 店長は何時から!?」
「その、本日はお休みをいただいておりまして……」
「じゃあ今すぐ電話して呼び出しなさいよ!」
わたしはクレババの左肩をそっと叩いた。おっかない顔のまま振り向くクレババ。
いくぞ、草薙麻希奈。元演劇部員の実力を見せてやれ!
「今、幸せですか?」
とびきりの笑顔と普段よりワントーン高い声色で、わたしはクレババに尋ねた。
「……はあ?」
「今、幸せですか?」
「……っ、何なのあんた──」
「困難に見舞われた迷える淑女を助けよ、という木星のお告げを頼りに、私はここまでやって来たのです。貴女ですね、迷えるクレ──いえ、淑女は」
クレババが体を強張らせたのがわかった。わたしを関わったらヤバい女だと判断したらしい。怒りで吊り上がった両目からは焦りと、僅かに恐怖も感じられる。
ここで中途半端に恥ずかしがったり、ためらったりしちゃ駄目だ。目を逸らすな。最後までやり切れ、草薙麻希奈。
「感じる……貴女から、強い怒りの黒き波動を感じる……浄化せねば……」
わたしが両手を伸ばすと、クレババは汚物でも避けるようにサッと横に逸れ、薄毛のおじさんにぶつかった。
「あ、ぶつかりましたよ。謝った方がいいですよ」
今度は声を普段のトーンに戻してみた。クレババは、怯えた目をガン開きにして、今まで以上に体を強張らせている。首無しライダーや紫ババアを目撃した人間はこういう反応をするんじゃないかな。
「貴女は黒き波動が罪なき人々に及ぼす恐ろしい影響についてご存知ですか?」
またワントーン高くして話を戻す。店員二人は顔を伏せてプルプル小刻みに震えてる。
「邪神アエーシュマは、人間が発する黒き波動を糧にします。貴女が発する黒き波動は、あまりにも強過ぎる。このままでは貴女は、次の朝を無事に迎えられないかもしれません」
アエーシュマ、勝手に名前使ってごめん。もういいや、ゾロアスターモドキでいこう。
「でも大丈夫! 我らが偉大なる主、アフラ・マズダは貴女のような者でも助け──」
「ああもうやめて! やめなさいよ気持ち悪い! もういいわよ!!」
わたしが元来た方向へ、小走りで逃げていくクレババ。東口の方に行くのか、それとも来たばかりだけど電車に乗って帰るのか。
そんな事よりも、周囲の視線がめっちゃ痛い。気付いたら後ろに何人もギャラリーいるし。うわぁ、急に恥ずかしくなってきた!
「……以上になります」
ギャラリーから拍手が上がった。頭頂部がプリンになってる金髪のおにーちゃんと、その恋人らしい小柄なおねーちゃんだ。更に他の人たちまで続く。や、やめてほんと恥ずかしい……。
「助かったよ。有難う」
振り向くと、薄毛のおじさんが笑顔を浮かべていた。その後ろの二人も、うんうんと頷いている。
「大変ご迷惑をお掛け致しました」
頭を下げる店員二人。いやむしろ、こっちの方こそ申し訳ない……。
「じゃ、そういう事で~……」
わたしはクレババとは逆方向、西口の更に先へと退散したのだった。
横浜駅を離れに離れ、気付くと全然知らない住宅街。途中で広い公園を見付けた──わたし以外には誰もいない──ので、ベンチで小休憩。
ああ、柄にもなくはっちゃけちゃったな。良かった、アドリブがスラスラと出て来て。もう少し凝った台詞が言えれば最高だったんだけど。演劇部では基本脇役だったし、台本通りにしか演じた事がなかったけど、少しは経験が役に立ったのかな。
最初は我に返ったら恥ずかしかったけど、今はもう開き直ってる。誰かに動画に撮られていて、ネットに流出する可能性もあるんじゃないかって考えが頭を過ったりもしたけど、別にそうなったらそうなったでいいや。どうせリセットされるんだもの。
そう、リセットされる。次回以降は前回までと同様、クレババの独擅場となり、店員や他のお客さんたちを苦しめる。わたしがループを繰り返し続けるうちは、毎回毎回、ずっとずーーーっと……。
誰か、わたしの代わりにあの場を何とかしてくれないだろうか。後ろで見ていたカップルでも、他の傍観者でも、通りすがりのサラリーマンでも構わない。何なら店員コンビでブチ切れてやれ。
ああ、もやもやする。何だか悔しい。そして虚しい……。
早く忘れよう。せっかく望んで手に入れたループ生活、楽しまなきゃね。いちいち気にしてたらキリがない。一人一人の人生、色々あるんだから仕方ないよね。うん。
さ、この後はどうしようかな。この知らない住宅街を歩き回って、何か面白そうなものとか、美味しそうな飲食店を探してみるか。そうだ、それがいい。で、帰りの電車は横浜駅じゃなくて、別の駅から乗ろう。よし決定!
とりあえずあのクレババには、大きめのバチが当たりますよーに!




