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最高なのはいつだって九月最後の水曜日  作者: 園村マリノ
第二幕

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10/21

03 蝶よ猫よ②

「いらっしゃいませ!」


〈保護猫カフェ にゃんぱら〉に入ると、レジカウンターから、にこやかな女性店員が出て来た。


 うへへへへ……宣言通り二回目!


「今までに当店のご利用はございますか?」


「はい」


 嘘じゃないもんね。


「有難うございます。ご利用時間は決まってらっしゃいますか?」


「二時間で!」


 ロッカーにバッグをしまい、手を洗う。今回もドリンクは後回しで、早速猫ちゃんたちの元へ!


 わたしがふれあいルームの扉を開けると、四人の先客たちと、数匹の猫たちが一斉にこちらを向いた。扉を閉めて完全に室内に入り、ちょっと待つと……

 

「ニャア」


 最初に挨拶に来てくれる黒白ちゃんは、えーと……きらり、だよね。しゃがんで体を撫でてやりながら、スマホを構える。前回撮った分は朝になったら全部消えていたし、今また撮ったところで結局同じなんだけどね。


 そうだ、覚えられるかは別として、今度こそ壁のボードをちゃんと見てみよう。きらり、いろは、夏時、蓮以外には……


 一〇歳のオスの白猫〝スノウ〟は〈にゃんぱら〉の最古株。のんびりマイペースで食いしん坊。


 推定三歳、メスの黒猫〝くろみ〟は、控えめでビビりさん。人間よりも猫と仲良く出来るタイプで、多頭飼いの方が向いているみたい。


 六歳のメスの三毛猫〝チェルシー〟は、頭と顔を撫でられるのが大好きだけど、それ以外の箇所は嫌がって猫パンチをしてくる事も。


 ……などなど。全部で三〇匹近くいるけど、一匹ずつプロフィールの違いを比べたりしながら見るのはなかなか楽しい。

 

「あら蓮、起きたの?」


 マダムが、すぐ隣のキャットタワーのてっぺんから降りたキジトラ──蓮に声を掛けた。


 そういえば、今回のわたしは座らずにボードの前にいるわけだけど、蓮はどうするんだろう。


 蓮はやっぱりマダムを一瞥する事もなく、近くに座る大学生くらいの女性二人の横を通り……前回わたしが座っていた辺りにストンと腰を下ろし、後ろ足で体を掻き始めた。


 おじさんが撫でていた夏時が起き上がり、蓮の元へ。そしてイチャイチャタイム開始。はい、ご馳走様でーす。


 そうだ、せっかくだから動画を撮っちゃえ。


 二匹に近付いてしゃがみ込み、スマホを構える。早く取らないと終わっちゃうかも──……


 夏時がわたしに気付いて動きを止めた。少し遅れてから蓮も。そして二匹揃って、わたしをじーっと見つめてくる。


「あ、邪魔しちゃった? いいよ、気にしないで続けて」


 わたしの後方で、マダムがちょっと笑ったのがわかった。


 再びスマホを構え直して、撮影ボタンを押

す。せっかく動画にしているのに、夏時と蓮はまだ動かない。


「夏時くーん、蓮くーん。お元気ですかー?」


 声を掛けたり手を振ったりしても、二匹は微動だにしない。ただじっと、クリクリした丸い目でわたしを見つめるだけ。


 何だろう、何だか妙な感じ……。二匹が見ているのは、わたしの顔じゃないような気がする。何だそりゃって思われそうだけど、他にどう言ったらいいのかわからない。上手く説明出来ない……。

 

 ガラガラと音を立てて扉が開かれると、夏時と蓮は我に返った。店員さんがふれあいルームに入ってきて、猫たちのトイレ用の砂を交換し始める。近くにいた猫──〝ダイヤ〟っていうメスのサバトラだ──が後ろからちょっかいを出した。


 夏時と蓮は、もうわたしに興味をなくしたのか、それぞれ別の方向に行ってしまった。




〈にゃんぱら〉を出た後、わたしは〈LA CITTADELLA〉の近くにあるビルの二階のカフェ〈ドドンドン珈琲〉に入った。もうお腹ペコペコ! 前回は地下街で中華だったから、今回はパスタかサンドイッチにでもしようかな。


 少し待ったら呼ばれて、窓際に案内された。ガラス張りで、交差点を行き交う多くの人々や京急線がよく見える。


 外を歩いている人たち、この店にいる人たち、〈にゃんぱら〉にいた人たち……それぞれ一人一人が、何かを抱えながら生きているんだろうな。わたしみたいに家族にいまいち恵まれなかったり、恋人が出来た事なかったり、職場でストレスが爆発しちゃいそうな人間も、少なからず存在するはず。


 外をぼんやり眺めながらそんな事を考えているうちに、注文したパスタとホットレモンティーが運ばれてきた。


「ごゆっくりどうぞ」


 はーい、ごゆっくりしちゃいまーす。


 パスタのてっぺんに乗っていた小エビをフォークにブッ刺し、麺をくるくる巻いていたら、右隣の席に新しい客がやって来た。


「あら、また会いましたね」


 上品な声に振り向いてビックリ、新しい客はマダムだった!


「あ、どうも~!」


 それに比べてわたしは何だ。もっとマシな挨拶は出来ないのか。ちょっと反省。


 もう一度マダムが話し掛けてきたのは数十分後、彼女が頼んだサンドイッチセットを食べ終わって少し経った頃だった。わたしもとっくにパスタを食べ終わり、だいぶ冷めたレモンティーの残りをちびちび飲んでいて、何ならおかわりを注文しようか迷っていた。


「あの猫カフェには、よくいらっしゃるの?」


「いえ、初めて来ました」


 実を言うと二回目だし、一回目の時にはあなたが親切に、夏時と蓮の事を教えてくれたんですよ──なんて、言いたくても言えないのが残念。


「あら、そうだったのね。夏時と蓮があなたに近付いてじっと見ていたから、常連さんかと思ったわ」


「あの二匹って、あんまり人慣れしないんですか?」


「慣れないわけじゃないけど、そんなに懐っこい子たちでもないわね。どちらもお互いが一番で、それ以外はあまり興味ないみたいだし」


 二匹のイチャイチャを思い出す。毎日あんな感じなのかな。


「私や他の常連さんたちは、最初のうちはあの子たちに触ろうと思っても避けられちゃってたし、向こうから近付いて来る事もまずなかったの。初めてであの子たちの興味を惹くなんて、あなたやるわねっ」


「ええ~そうですかね~? エヘヘヘッ」


 思い当たる節なら一つだけある。タイムループだ。あの子たちは、わたしがタイムループしている事に気付いていたんじゃないだろうか。


 ……いや、それは流石に考え過ぎかな。




 その後もマダムと雑談してから、わたしは先に失礼した。


 あの全体的に上品な雰囲気と、たまに茶目っ気のある喋り方の影響だろうか。わたしはつい仕事の人間関係を愚痴ってしまったんだけど、マダムはお説教するわけでも過剰に同情するわけでもなく、絶妙な加減で相槌を打ちつつ、わたしの気持ちに寄り添ってくれた。


 ああ、あんな素敵な人が母親かお祖母(ばあ)ちゃんだったらな……。


〈ドドンドン珈琲〉からちょっと歩いて向かったのは、大型商業施設〈ナゾーナ川崎プラザ〉。

 

 前回行かなかった一階の本屋まで来てみたわたしを新刊コーナーで出迎えたのは……何とまたしてもマダムだった!


 といっても、マダム本人とバッタリ再会したわけではない。平積みになったA4くらいの本のソフトカバーに、割烹着姿のマダムが写っていて、そのタイトルが……


蝶野恵梨(ちょうのえり)の 楽しくつくろう! 初心者にもオススメ和食レシピ』


 マダム、料理研究家か何かだったの!?


 思わずその場でスマホで検索。あ、ほんとに料理研究家だ。テレビにも出演経験があるみたい。全然知らなかった……。


 ちょっと立ち読みしたら、わたしにも何とか作れそうなレシピもあった。どうせ買っても朝起きたら消えちゃうんだよな……とためらったりもしたけど、最終的には本を片手にレジへと向かっていた。


 よし、今日の夕飯は久し振りに手作りだ! 同じ階にスーパーがあったから、食材はそこで揃えよう。




 で、早めに帰宅してからゴーヤチャンプルーと肉じゃが作りにチャレンジしたけど……


 ま、まあ普段ろくに料理しない人間にしては上出来な方だったかな! 味が良ければ見た目は別にいいんだよ、見た目は。

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