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茨の王  作者: 山臣
23/26

雪原に別つ 2

一つ謎解明……したのかなコレ…




囁くような小さな声がいくつか聞こえて、シキの意識はゆっくりと浮上した。


「……まだ起きないのか。もう一週間は経つぞ」

少し不機嫌そうな声はおそらくツェーザルだろうと、妙に爽やかな、しかし起き抜けの重たい思考の端であたりをつける。ばさりと足元に何かが投げ捨てられ、しかしすぐに持ち上げられて重さは消えた。しばらく、かさかさと枕元で音がしたかと思えば、植物の青々とした匂いが鼻腔をくすぐった。

「……フェルディナント殿下もご不調だとお伺いしております」

「ああ」

凛とした低めの女性の声は、ロザリ-であろうか。努めて瞼を開けないようにし、あくまで眠っている振りを続けるシキには憶測しか立てられない。しかし、聞き慣れたと思っていたものよりいくらか沈んでいたので、それも合わせて気にかかる。

「あれからすぐ倒れられた。まあ一日で起き上がられたが、どうにも様子がおかしい」

「夜も眠られていないそうですね」

「噂か、――女というのは、そういうのが好きだな」

「私個人は否、と言いたいところですが、否定はしかねます。噂と言うのは尾ひれも付きますが、馬鹿にできないことも多いので」

「そんなものか」

「そんなものです。娯楽が少ないのなら、なおさら」

「肝に銘じておこう。――邪魔をしたな」

徐々に小さくなった足音は、ぎい、と扉を押し開いて、そのまま遠ざかっていった。

ほっとして、無意識に強張っていた体の力を抜く。

小さく指を動かすと、そこは骨の中までぎしりと軋んで痛みを訴えた。ツェーザルの話ではどうも一週間も寝込んでいたそうだから、そうなるのも当然だろう。完全に固まってしまった訳でなし、また馴らせば動けるようにはなるだろうが、今はどうにも億劫でシキは動きたくはない。


――フェルディナントが、倒れた。


正直な話、シキには心当たりがありすぎてとてつもなく申し訳が無い気持ちで一杯だった。

シキは、あの惨劇を憶えている。全てが全て――言ったことも行ったことも、あの女の苦悶の顔も、鉄臭い血の匂いも、毒々しく美しい茨の花弁も。


「……お目覚めですか?」


急に声をかけられて、思わず瞼を開いてしまう。

枕元には、シキの予想通りにロザリーが立っていた。

しかし、特別怒っている風でも、悲しいんでいる風でも、嬉しく思っている風でもない。しかし無感動だった紫の瞳は、僅かに潤み揺らいでシキを見つめている。

「……おはよ、う、ロザリ、」

喉が痛み、声が擦れる。するとロザリーが枕元の小さな机に置いてあった水差しからグラスに湯冷ましを注ぎ、素早くシキに渡した。

「ありが、とう」

一口飲んで、次いで一気にシキは湯冷ましを飲み干した。思ったよりも身体が水分を欲しがっていたようだ。

「――お目覚めを、お待ちしておりました」

「うん。……まだ、誰にも報せないで」

「分かりました」

「ありがとう」

ゆっくりと、シキはロザリーの手を借りて起き上がる。シキが触れたロザリーの手はしっかりとしていて、細く白魚のような手なのに揺らぎもしない。逆に、シキがうろたえてしまって程に。

「貴女、は」

「はい」

「怖くない、かな。私のこと」

ロザリーが微かに目を見開いた。

「憶えて、おいでですか」

「うん、……全部、ね。怖い思いを、させたよね。ごめん、ね」

ロザリーは首を振った。ゆっくりと、しかし強く。

「確かに、恐ろしかったです。……けれど私は、血も、あの茨も恐ろしくはありませんでした。――ただ、あなたがあなたでなくなってしまったのが、恐ろしかった」

シキは笑う。

「――あれは私であって、私じゃない。でも私がやったことに、変わりはないんだよ、ロザリー」

「それでも、です」

「それでも?」

「ええ」

頷くロザリーを、シキは抱きしめる。

一瞬固まってしまった彼女に、おや、とシキは小さく首を傾げてしまった。私はこんなにも気安い性格だっただろうか。

まあいい、と自分なりに諦めて、シキはロザリーの頭を撫でる。少し彼女が恥ずかしそうにしているのは、気のせいではないだろう。シキよりも彼女の方がより、触れあいには慣れてはいないようだった。

「ごめんね」

「……いえ」

俯いてはいるが、少し嬉しそうに見えたロザリーにシキは微笑む。

考えてみれば彼女はシキより若いのだ、ここで姉ぶっても何ら問題はない。

「――リーリヤたちは?」

「一週間ずっとお傍におられたのですが、つい二時間ほど前に少し出てくるといって、空へ」

「そう」

シキが気配を探ると、微かに人間以外の気の残滓を感じた。ふたつの気配は濃く、宛がわれた部屋に充満している。これでは小さな魔獣などは入ってこれもしないだろう。

ふ、とロザリーに気付かれぬようシキは笑った。

根本から在り様の代わってしまった身体に、まだ精神が追いつききっていない。まるで冗談だ、と理性が叫ぶ。

「……はは、」

「シキさま?」

つい零れたシキの笑みに、怪訝そうにロザリーは眉を寄せる。

「すまないけど、リーリヤたちが戻ってくるまでひとりにしてもらえるかな」

「シキさま、」

「大丈夫、大それたことは考えてないよ」

渋るロザリーを説き伏せ、シキはロザリーが扉を閉めるのを確認して、溜息をつく。

契約した魔術師と魔使は魂同士が深く繋がっているため、お互いの動向が分かる。詳しいことを判断することは出来ないが、目が覚めた、寝た、といった簡単な行動はすぐに感付ける。大方彼らがシキの傍を離れたのも、目が覚めると魂の深い場所で理解し、何かシキに見せたいものでも取りにいこうといった可愛らしい行動だろうとシキは推測している。

彼女たちは昔から・・・そうだ。主の喜ぶことを常に探して、常に傍らにあり寄り添う。何とも可愛らしく、それでいて――酷く哀れな存在を、は愛していた。

「……さあ、これからどうしようか、わたし・・・

目だけで部屋の四隅を見やる。うっすらと張られた水に似た膜は、音を通さない魔法による障壁だ。の力を受けたリーリヤとカレヴァのみが通り抜けられる障壁。うっかり刺客や密偵などがいれば、困ったことになってしまうのを防ぐためだ。

は当分眠ってるだろうから、大丈夫と言えば大丈夫…か、な。でも、それで私を利用されるのはまずいし、御免だし、嫌だ。……ああ、魔法を使えるようになっちゃったのは、面倒だな」

げんなりして、シキは肩を落とす。

が、その眼は強い光を失ってはいなかった。


「……助けるよ、兄さん。それまでは、わたし・・・の中で眠っていて」


あの雪原に埋もれた少年にそっくりの掌を、シキは見る。





「私が、助けるよ。――ヨルゲン、兄さん」






言っちゃうと、シキはヨルゲン本人の転生者ではなかったっちゅうことですね。

分かり辛くてすいません……自己満足ばっかりです私…

まあいっか!←


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