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茨の王  作者: 山臣
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いつかのゆめ




悲鳴が聞こえる。




目の前が真っ赤に染まって、手足の肌だけではなく、目玉やその奥の脳髄まで焦げるように熱かった。

木々の燃え爆ぜる音が耳のすぐ傍で聞こえる。

ぱちぱち、というかわいらしい者ではなくて、大木ごと軋むような轟音。

空まで、目の前の赤に照らされたように赤い。首を巡らせて――気づく。

――これは、炎の赤だ。




悲鳴が聞こえる。




身の内を蝕むように、ずきずきと痛みが湧き上がる。

歯を食いしばって、広大な炎の海を見下ろす。これは「町だったもの」だと、誰から言われるでもなく理解できた。

空は黒く、赤い。煤で汚れるように、炎に焼かれるように。

焦げた木や肉の匂いが鼻を刺した。




悲鳴が聞こえる。




逃げ惑う人々の声は炎の爆ぜる音で聞こえない。

うねるように熱を帯びた風が頭上を駆け抜けて、それを見上げると、巨大な灰茶色の竜がその鋭い鉤爪を持った足をこちらに振り下ろす所だった。

それを、何を思うでもなく、素手で掴む。するとそれだけで、竜は取り乱すように暴れ始めた。

龍の首の辺りから舌打ちが聞こえ、爪を離すと距離をとるように強靭な翼が羽ばたいて離れた。

煽られた熱風が頬をかすめる。




悲鳴が聞こえる。




耳が痛い。

誰が啼いているのだろう。獣のように、何を慟哭しているのだろう。

先ほどの竜の上には人が乗っていて、見るからに立派そうな鎧で、騎士だと知れた。

長い両手剣を片手で軽々と扱い、何か訳のわからない言葉を喚いている。




悲鳴が聞こえる。







うるさい。


うるさくて、かなわない。




ただでさえ痛いのに、(からだとこころが)


悲しいのに、(どうして?)


憎んでいるのに、(なにを?)




どうして、邪魔をする。








悲鳴が聞こえる。




向かってきた竜の首を、今度こそこの手で掴む。

驚愕に侵された騎士の顔を横目で見やって。










ぐしゃり、











悲鳴が聞こえる。






――それが誰のものなのか、終いまで解からなかった。







それが夢なのか、現実であったのかさえそのひとにはわからない。


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