危険人物⁉
夜の街。
魂の収穫を終えた兄弟は、静かに歩いていた。
任務は完了。あとはミーナたちと合流するだけ──そのはずだった。
「……気配が変わったな」
弟が呟いた瞬間、路地の影が濃くなる。
風が止み、音が消える。
黒衣の人物が、無音のまま現れた。
「悪魔狩りじゃない……先生たちが言ってた、“例の組織”か」
兄が低く呟く。
弟はすぐに呪符を取り出す。
「魔法は使うな。ここで力を見せるのは得策じゃない」
兄の判断に、弟は頷く。
二人は、呪いの術式を展開する。
──“フォンノート”
──“ヴィスディスト”
──“トラメイル”
喉を封じ、視界を歪ませ、足取りを乱す。
呪いは静かに空間に染み込む。
だが──黒衣の人物は、まるでそれを“待っていた”。
「浅いな。君たちの呪いは、魂の深度が足りない」
その言葉とともに、呪いが反転する。
兄の足元に裂け目が走り、呪い返しが発動。
「っ……!」
兄が膝をつき、弟が支える。
空間が歪み、逃走を余儀なくされる。
「逃げよう! 今は、情報が足りない!」
弟の叫びに、兄は頷く。
二人は、呪いの煙幕を展開し、路地裏を駆け抜ける。
黒衣の人物は、追わなかった。
ただ、静かに呟いた。
「魂は穢れを祓われ、輪廻へと還るべきだ。
契約によって留め置かれた魂は、いずれ正しき流れに戻される。
我々は、そのために在る」
──兄弟は、傷を負いながら夜の街を走り抜けた。
──ミーナたちとの合流は、予定よりも遅れることになる。
兄弟は、息を切らしながらミーナ達の元に辿り着いた。
ミーナと、隣に静かに立つミンフが待っていた。
「……おかえりなさい。遅かったね」
ミーナが静かに言う。
「襲撃された。……“例の組織”だと思う」
兄の言葉に、ミーナの目がゆっくりと細くなる。
ミンフは何も言わず、ただ兄弟を見つめていた。
「……そう。やっぱり、動いてるんだね」
弟が顔を上げる。
「知ってるの?」
ミーナは少しだけ頷いた。
「先生が……前に、少しだけ話してたの。
名前も、詳しいことも、わからないけど……
契約のことを、よく思っていない人たち、って」
兄が苦笑する。
「俺たちの収穫した魂も、いずれ“還す”って言われたよ。
魔法は使わなかった。呪いだけで応戦したが……返された」
ミーナは目を伏せる。
「……魔法を見せないでくれて、よかった。
魔法は切り札だからね」
弟が拳を握る。
「俺たち……狙われてるってことか?」
ミーナは答えず、懐から一枚の古い紙片を取り出した。
そこには、輪を描くような印と、中央に刻まれた“無音の鐘”の紋章。
「……先生が、これを見せてくれたことがあるの。
その人たちが使う印、だって。
もしまた会ったら……できれば、交戦せず逃げるのがいいと思う。
話し合いは……たぶん、難しいと思うから」
──その夜、彼らはようやく再び一つの場所に集まった。
だが、誰もが知っていた。
この再会は、嵐の前の静けさにすぎないことを。




