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何もない私がすべてを手にするまで  作者: ちゃんちゃん
34/38

危険人物⁉

夜の街。

魂の収穫を終えた兄弟は、静かに歩いていた。

任務は完了。あとはミーナたちと合流するだけ──そのはずだった。


「……気配が変わったな」


弟が呟いた瞬間、路地の影が濃くなる。

風が止み、音が消える。

黒衣の人物が、無音のまま現れた。


「悪魔狩りじゃない……先生たちが言ってた、“例の組織”か」


兄が低く呟く。

弟はすぐに呪符を取り出す。


「魔法は使うな。ここで力を見せるのは得策じゃない」


兄の判断に、弟は頷く。

二人は、呪いの術式を展開する。


──“フォンノート”

──“ヴィスディスト”

──“トラメイル”


喉を封じ、視界を歪ませ、足取りを乱す。

呪いは静かに空間に染み込む。

だが──黒衣の人物は、まるでそれを“待っていた”。


「浅いな。君たちの呪いは、魂の深度が足りない」


その言葉とともに、呪いが反転する。

兄の足元に裂け目が走り、呪い返しが発動。


「っ……!」


兄が膝をつき、弟が支える。

空間が歪み、逃走を余儀なくされる。


「逃げよう! 今は、情報が足りない!」


弟の叫びに、兄は頷く。

二人は、呪いの煙幕を展開し、路地裏を駆け抜ける。


黒衣の人物は、追わなかった。

ただ、静かに呟いた。


「魂は穢れを祓われ、輪廻へと還るべきだ。

契約によって留め置かれた魂は、いずれ正しき流れに戻される。

我々は、そのために在る」


──兄弟は、傷を負いながら夜の街を走り抜けた。

──ミーナたちとの合流は、予定よりも遅れることになる。



兄弟は、息を切らしながらミーナ達の元に辿り着いた。

ミーナと、隣に静かに立つミンフが待っていた。


「……おかえりなさい。遅かったね」


ミーナが静かに言う。


「襲撃された。……“例の組織”だと思う」


兄の言葉に、ミーナの目がゆっくりと細くなる。

ミンフは何も言わず、ただ兄弟を見つめていた。


「……そう。やっぱり、動いてるんだね」


弟が顔を上げる。


「知ってるの?」


ミーナは少しだけ頷いた。


「先生が……前に、少しだけ話してたの。

名前も、詳しいことも、わからないけど……

契約のことを、よく思っていない人たち、って」


兄が苦笑する。


「俺たちの収穫した魂も、いずれ“還す”って言われたよ。

魔法は使わなかった。呪いだけで応戦したが……返された」


ミーナは目を伏せる。


「……魔法を見せないでくれて、よかった。

 魔法は切り札だからね」


弟が拳を握る。


「俺たち……狙われてるってことか?」


ミーナは答えず、懐から一枚の古い紙片を取り出した。

そこには、輪を描くような印と、中央に刻まれた“無音の鐘”の紋章。


「……先生が、これを見せてくれたことがあるの。

その人たちが使う印、だって。

もしまた会ったら……できれば、交戦せず逃げるのがいいと思う。

話し合いは……たぶん、難しいと思うから」


──その夜、彼らはようやく再び一つの場所に集まった。

だが、誰もが知っていた。

この再会は、嵐の前の静けさにすぎないことを。

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