表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何もない私がすべてを手にするまで  作者: ちゃんちゃん
33/38

契約

病院の廊下は静まり返っていた。

少年は、面会時間ギリギリに病院を訪れていた。

目的はただ一つ──あの三人の“末路”をこの目で見ること。


ガラス越しに見える病室。

そこには、かつて自分を虐げていた三人の男子生徒がいた。


一人は呼吸が荒く、顔色が灰色に近かった。

一人は意味不明な言葉を繰り返しながら、ベッドの柵を掴んでいた。

もう一人は、意識があるのかないのかも分からないほど、ぐったりと横たわっていた。


医師たちは原因不明の症状に困惑していた。

検査結果は異常なし。

だが、身体は確実に“壊れて”いっている。


少年は、ただ静かにそれを見ていた。

何も言わず、何も感じないように見えた。

だが、心の奥では確かに何かが満たされていた。


──これで、終わった。

──僕の復讐は、果たされた。


そう思った瞬間、胸の奥にぽっかりと穴が空いたような感覚が走った。

満足と空虚が、同時に押し寄せてくる。


少年は病院を後にし、家へと帰った。

その足取りは、軽くも重くもなかった。


兄弟の悪魔は、遠くからその姿を見ていた。

契約は進行中。

魂は、ゆっくりと、確実に熟成されている。


夜。少年の家。

家族との食卓。

母の煮物の香り、妹の笑い声、父の穏やかな口調。

少年は、静かにそれを味わっていた。


──これが最後の晩餐。


そう思っていた。

そう、思っていたはずだった。


兄弟の悪魔は、家の外に立っていた。

契約の魔法陣は、すでに少年の部屋に展開されている。

儀式は、少年が“満ち足りた瞬間”を迎えた時に発動する。


そして──


少年が箸を置いた瞬間、空気が凍った。


体が震え始める。

視界が歪む。

口元から光が漏れ始める。


「……っ、あ……あれ……?」


母が何かを言おうとしたその時、少年は立ち上がった。

苦しそうに喉を押さえ、何かを叫ぼうとする。


──待って。

──まだ……まだ、終わりたくない。


兄弟の悪魔が、部屋の中に現れる。

家族には見えない。

ただ、少年の魂だけが、彼らを見ていた。


「契約、完了だ。

君の魂は、最高の形で熟成された。 ありがとう」


少年は、震える手を伸ばした。


「やだ……やだ……!

まだ……生きたい……!

僕……まだ……!」


光が弾ける。

少年の体は崩れ落ち、魂は箱に吸い込まれていった。


家族の悲鳴が響く中、兄弟は静かに姿を消した。


──それは、誰にも知られることのない“悪魔の収穫”だった。

──そして、少年の最後の言葉は、“生きたい”だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ