日本一気軽なフルート教室?
そんなタイトルのチラシを見たら、
誰もが気になるだろう。
私もその1人。
フルートってお高くて、
敷居が高くて、
お嬢様がやってそうな楽器で、
憧れる楽器のひとつ。
ブラスバンド部で
キレイな先輩が吹いてたっけ。
そんな記憶が頭の片隅にある。
「日本一気軽なフルート教室」
「のんびりまったり癒しの時間」
「モーニングコーヒーならぬモーニングフルート」
「午後のティータイムも募集しております」
なんてキャッチコピーが並ぶチラシは
佐知子の目の前にある。
たまに友人と来ているカフェで
トイレに来たら置いてあったのだ。
ピアノやヴァイオリンはともかく、
フルートってそんな簡単に習えるものなのか。
という疑問がどこかへ行ってしまいそうな
フランクで近寄りやすいチラシと
ニコニコ笑っている先生の写真。
お手頃価格なちいちゃなフルートというのも
なんだか気になる。
(楽器って高そうだもんなぁ)
ママ友の1人が
グランドピアノを買うとか買わないとかで
(結局買わなかったそうだけど)
話していたなぁと思い出す。
レッスン代はまぁそこそこ。
昔、子供たちに習わせていた様々な習い事を考えると妥当な金額だろう。
チラシを1枚手に取り、席に戻る。
正直、子育てが落ち着いて、
仕事も落ち着いて、
時間をもてあましている。
かといって、頻繁にお茶やランチをするのもなんだか違う気がして、カルチャーセンターのチラシを昨日も見ていた。
フルート、ありかな。
ちいさいから、
部屋で邪魔になることも少ないだろうし、
きっと音も小さかろう。
日本一気軽なら、辞めるのも簡単だろう。
手頃な楽器があるなら、
辞めやすさも増してくる。
何かを辞めるのは、始めるの時の何倍も力がいる。
退路も準備しておくと、
なんだか違ったなと思った時に、修正が効く。
「なに、そのチラシ?」
席に戻ると早速聞かれる。
「フルート教室のチラシよ。
ちょっと気になってね。」
「へぇ。なんだかお高そうな習い事ね。やるの?」
「やってみようかなぁと思って。」
そう話しながらチラシをカバンにしまう。
「みんな、色々始めるわよねー
美智子は畑、薰はお花、佐知子はフルートいいじゃない。」
そんな話が広がりながら、
私の頭の中はフルートになりつつあった。
帰ったら電話してみよう。
どんな先生なのか、ドキドキするが、
きっと優しい人に違いない。