第8話 風紀委員がポンコツなわけがない
みんなで昼食を取ることになった。
「わたしくしもご一緒してよろしかったのでしょうか?」
「もちろんですよ!金ヶ崎先輩」
昼食を取るにあたり忍と金ヶ崎も仲良くなった。
「金ヶ崎さんも購買とか使うのね」
「はい。天道さんに購買の使い方を教わってから興味を持ちましたの」
「へぇ~」
(司、また女の子を引っかけたのね。あぁ~なんかイライラしてきた)
めっちゃ甘音が睨んでくる。
「……何だよ甘音?」
「別に」
睨んだりそっぽ向いたりめんどくさいな。
「美琴は相変わらず食事中にも本を読むんですね」
「行儀が悪いことは分かってるんだけどね、どうしても手が止まらなくて」
女子だらけの空間で黙って食っていると、すぐに焼きそばパンを食い終わった。
……食い終わったし、女子ばっかりで気まずいし、ちょっと離れるか。
「先輩どちらに?」
「手を洗ってくる」
適当なことを言って女子たちから離れ、スマホゲームを起動する。
「そこの男子生徒!」
あ、新キャラのガチャ出てるな。石はある……回すか。
「そこの、男子生徒!」
まずは十連。こい、こい、こい!
「そこの!男子生徒!!」
「しゃあっ!来た!!」
「うわっ!?」
十連で新キャラが出てきた喜びから思わず叫んで顔を上げる。すると目の前で転んでいる女子生徒がいる。どうしたんだ?
「……大丈夫か?」
手を差し出して女子生徒を立たせる。
「あ、ありがとうございます。……じゃなくて、あなたに言いたいことがあるんです!」
俺に用事か。しかしこいつ、小さいな。身長百四十cmくらいじゃないか?
「まずは名前を聞かせてもらえるか?」
「あぁ、そうですね失礼しました。二年二組、風紀員所属、風和純です」
風和は腕に付けた風紀員の腕章を見せてくる。……風紀委員か、関わると絶対めんどいよな。
「そうか。それじゃあ気をつけてな」
「はい。ありがとうございました!」
風和に別れの言葉を言ってその場を去る。あいつ、要件を忘れてるな。意外とポンコツなのか?
「って、待ってください!」
後ろを向くと、風和がダッシュで近づいてくる。
「何の用だ?」
「あなたに、言いたいことが、あるんです!」
「そうか。そういえば名乗ってなかったな。二年一組の天道司だ」
「隣のクラスでしたか。では天道くんとお呼びします」
「そうしてくれ。それじゃあな」
「はい、それでは。……って、その手には乗りませんよ!」
ちっ、ダメか。さすがにそこまでポンコツじゃなかったか。
「それでなんの用なんだ?」
話をそらすのがダメならさっさと要件を済ませよう。
「私見たんです」
「何を?」
まさかUFOでも見たとか言い出さないよな?
「あなたが大勢の女子生徒に囲まれて昼食を取っている姿です!」
UFOじゃなかったか。しかし俺が女子に囲まれる?何言ってるんだこいつは。
「風紀委員として、不純異性交遊は見過ごせません!」
何を言ってるんだこいつは!?
「なので、しょっ引きます!」
風和はどこからともなく防犯ブザーを取り出す。
「何故に防犯ブザー?」
「私はこんな見た目ですからね。近寄ってくる自称紳士を撃退するために持っているんです。さぁ、これを鳴らされたくなければ大人しくしてください」
やばいな風紀委員。……けど本当に鳴らされるとめんどくさいな。
そう考えていると、風和の後ろに人影が忍び寄る。……あれは、忍か。
「おや、面白い物を持っていますね」
「ひゃっ!?」
突然後ろから忍に話しかけられたことに驚き、風和が防犯ブザーの紐を引っ張る。
ピピピピピピピピピ!!!
「うるさいですね。ちょっと失礼」
忍は流れるような手つきで風和から防犯ブザーと紐を奪い、音を止める。
「先輩大丈夫ですか?」
「あぁ助かった。変なのに絡まれてな」
「なるほど、なるほど」
忍は防犯ブザーを持ったままこっちに来る。
「ほう、よく見るとあれは風和風紀員ですか」
「忍、知ってるのか?」
「噂程度ですが。風和純、別名カップルハンター」
なんだその物騒な二つ名。
「彼女が潰した男女は数知れず。普通のカップルから、五股、NTR、SM、彼女は目に映ったカップルを片っ端から潰しているらしいですよ」
「……うちの学校そんなヤバい奴らが居るのかよ」
そしてそんなヤバい奴らを風和が潰しているのか、あいつ意外と凄いのか?
忍と話していると、驚いた状態から復活した風和が近づいてくる。
「その子の言う通り、私は多くのカップルをしょっ引き、裁きました。そして今回は天道くん、あなたの番です!ハーレム野郎は初めてですね」
「いやハーレム野郎とかじゃないけど?あと五股とは違うのか?」
「五股をしたのは女子生徒なんです」
なるほど逆ハーレムか。
「分かっていただいたところで、大人しくお縄についてくれますか?」
「いや、だから勘違いだって。なぁ忍」
「そうですね。先輩は女子に囲まれていても一切手を出してこないヘタレ野郎ですからね」
「そうそう。……おい、さり気にディスったな?」
ヘタレ野郎って、恋人でもない女子に手を出す方がヤバい奴だろ。
「何のことでしょう?私は事実しか言っていませんよ」
忍は意地悪く笑う。ったくこの後輩は。
「どうだ風和。分かってくれたか?」
「……お二人の言い分は理解しました。しかし全員の話を聞かなければ納得しません!」
えぇ、めんどくさいなこいつ。
「では話を聞きに行きましょう!」
「おう、行ってら」
「当事者が行かなくてどうするんですか!?」
忍に腕を引っ張られてみんなの元に戻った。
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「あ、やっと戻ってきた!」
「あら、一人増えていますわね」
どうやら飯は食い終わったらしい。みんなで楽しそうに話している。
「風紀委員の風和純です。本日は聴取をしに来ました!」
聴取とかいう単語にみんな首を傾げている。そりゃそうだ。
「あら、あなた、確か同じクラスの風和さんですわよね?」
「……よく見たら同じクラスの金ヶ崎さん!それに好本さんも!」
「あ、どうも」
美琴は本を読むのに集中していて適当な挨拶を返す。さすが美琴自分のペースを崩さないな。
「まさかクラスの中でも孤立しているお二人が友人と食事をしているなんて」
二人とも孤立してるのかよ。
「二人とも孤立してるの!?」
俺が思っていたのと同じことを甘音が叫ぶ。
「わたくし、高校に入るまでは海外に居まして、日本での友人の作り方がよく分からず……」
「私は本を読む方が好きだから」
……まぁこれほど癖の強い二人なら孤立もするか。
「けど風和さん、私たちのこと言えないんじゃない?風和さんだってクラスだと孤立してるでしょ?」
美琴は本を閉じて風和の方を向く。心なしか美琴の口調が強いな。
「何だ、風和も孤立してるのか」
「そ、それは……」
どうやら図星らしい。風和は黙り込む。
まぁ何となくわかる。風紀委員の権限で目につくカップルを片っ端から潰していれば他人からは警戒される。クラスで孤立する理由には十分だ。
「風和さんがここに来た理由は何となくわかるよ。私たちと司くんの事でしょ?」
美琴は顔を風和の耳元に近づける。
「……私たちと司くんは友達だよ。分かってくれるよね?」
「は、はいっ!?」
美琴が何かを呟くと、風和は怯えたような声を出す。
「納得してくれて嬉しいよ」
「い、いえ。私も問題がないことが一番ですから!では失礼します!」
風和は凄い速度走って行った。
……美琴の奴、何言ったんだよ?