第3話 姉と妹がブラコンすぎる
「ただいまー」
家に入り、リビングに繋がる扉を開ける。
「お兄ちゃん、お帰り!」
「お帰り、司!」
リビングに入ると姉妹が俺に向かって抱き着いてくる。
俺をお兄ちゃんと呼んだのは妹の天道魔導華。
現在中学三年生。
整った顔立ち、長い黒髪をツインテールにしている美少女。
頭脳明晰でテストではいつも学年一位を取っている。逆に運動神経は絶望的。
そして厨二病を拗らせていて部屋に魔法陣を描いたりしている。数年前に描いたものを今だに消していない所を見るにまだ厨二病は治ってはいない。さらに言うと重度のブラコンでありシスコン。
俺を司と呼んだのは姉の天道騎士華。
現在大学二年生。
長い黒髪をポニーテルにしており、こちらも魔導華同様に容姿端麗。さらに女性にしては背が高くスタイル抜群。魔導華はまだ幼さが残っており可愛いという印象だが、姉さんの方は綺麗という言葉が似合っている。
運動神経抜群で高校時代には陸上で全国大会で優勝をしている。だが逆に勉強はからっきしでテストでは毎回赤点ギリギリ。大学に入れたのも俺や魔導華が姉さんのやる気を出させるために色々と苦労したから。さらに重度のブラコンでありシスコン。
「ただいま。とりあえず離れてくれ」
「「はーい」」
二人は幸せそうな顔をしながら離れる。
「とりあえず昼飯を食いたいんだけど……」
俺は荷物を置き、冷蔵庫を開ける。
「何も無いな」
そういえば昨日の夜に食材ほとんど使ったんだ。
「あー、そういえば何もなかったね。仕方ない、お昼はカップ麺にしよう」
姉さんの言葉に頷き、各々好きなカップ麺を手に取る。
俺は普通のカップラーメン。魔導華はカップうどん。騎士華姉さんは激辛焼きそば。
「それでそれで、二人とも学校はどうだった?」
お湯が沸くのを待っていると姉さんからの質問が飛んでくる。
「私は普通かな。仲いい子も同じクラスだったし」
「魔導華は今年から受験生だよな。……やっぱり俺と同じ高校にするのか?」
魔導華は前々から俺と同じ高校に通いたいと言っている。俺の高校はこの辺りでも平均的な偏差値なので魔導華ならば余裕で合格できる。だが魔導華ならもっと偏差値が上の学校にも余裕で合格出来るはずだ。
「もちろんお兄ちゃんと同じ学校にするよ!お兄ちゃん高校に入ってから一緒に登校してくれないんだもん!」
「仕方ないだろ。中学と高校は時間が違うんだから」
「……そう言いながらゲームをやりたいだけでしょ」
さすがは妹。よく分かっている。
「さすがは妹。よく分かってる」
「お兄ちゃん声に出てるよ?」
「え、……あーえっとだな」
マズいな。何とか言い訳を……。
「まぁお兄ちゃんが言うことも一理あるし、後一年は我慢してあげる」
「そうか。聞き分けの良い妹を持って俺は嬉しいよ」
「でもね、納得できないこともあるんだよ」
その瞬間、魔導華の目から光が消える。
やばいこれは面倒な時の魔導華だ。
「お兄ちゃん。甘音ちゃんと一緒に学校行ってるよね?」
「それは、あいつが押しかけて来たから」
「へぇ、じゃあお兄ちゃんは押し倒せば言うこと聞いてくれるんだね」
「待て待て魔導華、言葉が間違ってるぞ?いや本当に待てストップ、落ち着け」
「大丈夫。優しく、優しくするから」
光の消えた目のまま魔導華がゆっくりと近づいてくる。
やばい、これはたまに出る魔導華の悪い癖の中でもさらに面倒な状態だ。この状態の魔導華は思考がかなりぶっ飛んでいる。
「はい。ストップだよ魔導華」
そんな状態の魔導華を姉さんが抱きしめて止める。
「お姉ちゃん止めないで。お兄ちゃんを押し倒さないと!」
「まだダメ。十八歳までは我慢だよ。十八歳になったらみんなで結婚して好きなだけ司を押し倒せばいいから、ね」
「むぅ。分かった」
「いや兄弟じゃ結婚出来ないからな!?」
「司、兄弟でも愛さえあれば問題は無いんだよ?」
ダメだ。妹だけじゃなくてこの姉も頭のネジが飛んでやがる。
「それとも司には他に好きな子がいるのかな?」
「え?お兄ちゃん好きな人がいるの?誰?どこにいるの?」
姉さんの軽はずみな発言のせいでまた魔導華の目から光が消える。
「いないよ。そんなことより今はゲームで忙しいからな。……ごちそうさまでした」
食事を終え、魔導華や姉さんからの面倒な追撃を避けるために自室に戻る。
「はぁ~、魔導華も姉さんも何であぁなんだろうな」
何故かあの二人は昔から俺に好意を向けてくる。
それが兄妹の範疇ならいいんだが、どこからどう見てもその好意は異性に向けるそれだ。
「二人とも相手なら選び放題だろうに、何でよりによって兄弟の俺なんだよ。……考えても仕方ないか、厳選しよ」
頭を切りかえてバックからゲーム機を取り出し、厳選を始める。
二人は昔からあぁだからな。考えるだけ無駄。それよりゲームだ。
「今日の夜までには終わらせたいが……」
だがことは上手く運ばない。小一時間ほどやって出たのは二体。あと欲しい数は三体。よし、頑張るぞ!
「お兄ちゃんー!」
「うわっ、びっくりした」
気合いを入れ直したところでいきなり魔導華が部屋に入ってきた。
「買い物行くよ!」
「えー、めんど───」
「行くよね?」
笑顔のままグイグイと魔導華が近づいてくる。……仕方ないな。
「分かった。行くよ」
「さすがお兄ちゃん!早く行くよ!」
「分かった、分かったから引っ張るな」
魔導華に引っ張られながらリビングに向かう。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんを連れてきました!」
「よくやった偉い魔導華!よし、行くよ!」
「ちょ、二人とも引っ張るなっ!」
魔導華に加えて騎士華姉さんにも引っ張られて買い物に向かった。
______
向かった場所は近くにあるスーパーマーケット。
そんな場所で俺は姉と妹、二人と腕を組みながら食材を見ている。
「さて、今日の晩御飯はどうしようか?」
「なんでもいいよ」
「司、それが一番困るんだよ」
「えー、じゃあ魔導華が決めていいぞ」
「いいの!それじゃあ……」
「司、どうしてお姉ちゃんをハブるのかな?」
「ちょ、姉さん。痛い痛い」
姉さんは腕を組む力を強める。姉さんはスタイルが良いので腕を強く組まれると必然的に柔らかい物が当たる。だがそれ以上に姉さんは力が強く、痛いという感想が先に出る。
「姉さんに聞いてもどうせ辛い食べ物しか言わないだろ?」
「えー、そんなことないよ」
「じゃあ姉さんはどうするんだ?」
「そうだなぁ。……カレーとか?」
「辛い物じゃん」
姉さんは辛い物好きだ。それもかなりの。
姉さんの味覚に合わせて料理をすると、俺と魔導華では食えない物しか出てこない。
「まぁまぁ、お兄ちゃん。いいじゃんカレーで。私がお兄ちゃんの分まで作るから」
「それなら、いいか」
「む、二人とも酷いなぁ」
二人に腕を組まれたまま買い物をしていると、魔導華が足を止める。足を止めた場所はスイーツコーナー。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「あー、またか」
「魔導華はほんとに甘いもの好きだね」
魔導華は姉さんと逆で甘い物好き。それもかなりの甘党。
「一つだけだぞ」
「えー、せめて二つ!お願い!」
魔導華が手を合わせてお願いしてくる。俺は揺るがないが、ここにはそんな妹に甘い姉がいる。
「しかないなぁ。二つだけだからね」
「やった、さすがお姉ちゃん」
魔導華は笑顔で「何にしようかな~」とスイーツを眺める。
「姉さん。魔導華をあんまり甘やかすなよ。スイーツ食い過ぎて太るぞ」
「そうなったらお姉ちゃんが一緒に走ってあげるから大丈夫。もちろん司も一緒にね」
「それじゃあ尚更食わせるわけにはいかないな」
「大丈夫、私が引きずってでも連れて行くから!」
「……やっぱり食わせるわけにはいかないな」
と言っても楽しそうにはしゃぐ妹を止めることなんて出来ず、結局スーツを抱えた妹を見てため息を吐きながらも受け入れてしまった。