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理想が現実になるとめんどくさい  作者: 影束ライト
 序章 平凡で平和な世界
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第1話 幼馴染と新学期

 四月。それは出会いと別れの季節。

 そして今日は俺が通う高校の新学期。

 今年から高校二年生になる俺、天道てんどうつかさは現在、自室でゲームをしている。


「個体値厳選、マジキツイ……」


 正確にはモンスターをゲットするゲームで、モンスターを厳選している。

 今回の個体は……ダメだな。こいつじゃネットの世界は生き残れない。こいつをボックスにあるタマゴと交換。次は頼むぞ。

 そうしてガチャガチャ、クルクルとコントローラーを動かして卵を孵化させていると……。


 ピーンポーン


 家のチャイムが鳴った。

 現時刻七時三十分。この時間なら宅配は無いな。……とりあえず居留守しよ。最近は変な人が多いからな、下手に出るのは危ない。

 そうして居留守を決め込み、厳選に戻ること十秒後。


 ピーンポーン


 またしてもチャイムが鳴った。だが俺は厳選で忙しい。

 ……ちっ、こいつもダメだな。新しいタマゴと交換だ。


 ピーンポーン

 ピーンポーン


 次は二回続けてチャイムが鳴った。

 仕方ない一度考えよう。相手は誰だ?この時間だと宅配は無い。とすれば家族の誰かの知り合いか?


 父さんの知り合いの可能性、これは無い。なぜなら父さんは仕事で海外を飛び回っているから。

 そして母さんの知り合いも無い。母さんは家事が絶望的に出来ない父さんの世話をするために海外までついて行っているからだ。

 子供だけを残すのはどうかと思うかもしれないが、そうしてでも父さんを一人にさせる訳にはいかない。


 父さんの家事の出来無さと言ったらまじで絶望的。

 飯は一口食えば強制的に腹の中の物すべてを吐き出す絶望的な味。掃除をやるとやる前よりも汚くなる。洗濯なんてした時には女性陣の怒りMAX。俺もお気に入りだったキャラクターTシャツからキャラクターが消えた時は悲しみを通り越して驚いたものだ。もはや魔法の領域にある家事を見ていて、父さんは魔法使いなの?と聞いてしまった。父さんは苦笑いしてた。


 そんな父さんの影響で天道家の子どもたちは母さんから家事を徹底的に叩き込まれ、全員標準以上の家事をこなせるようになっている。なので母さんは安心して家を空けて父さんの世話をできるという訳だ。


 次は妹の知り合い説。

 これはどうだろうか?

 中学生の妹はすでに学校に向かっている。「お兄ちゃん一緒に行こう!」と言われたが、「厳選があるから無理」と断った。納得はしていなかったが、「遅刻するぞ?」と言ったら不満そうな顔をしながら学校に向かった。これまでに妹の友達が家に来ることもなかったので、妹の可能性はかなり低い。


 最後は姉さんの知り合い説。

 これもかなり低い。大学生の姉は現在睡眠中。そして自分のリズム以外では絶対に起きない。これだけチャイムを鳴らされても起きてこないのがその証拠だ。そして大学の始まりは一、二週間ほど先と聞いているし、妹同様に姉が友達を家に呼ぶことはこれまで無かったので姉の可能性も却下。


 ……考えうる可能性がすべて潰れてしまった。

 残された可能性と言えば変な勧誘くらいだが、それならスルーでいいだろう。

 さて、そろそろ学校に向かう時間だ。厳選は終わっていないが仕方がない。バックにゲーム機を入れて家を出る。


「随分と遅かったわね」


 扉を開けた瞬間、前髪で隠れた目に太陽の光が襲ってくる。それと同時にチャイムを鳴らしまくってた奴から声をかけられる。そういえば俺の知り合いという可能性を忘れていたな。


「甘音か。おはよう」


 チャイムを鳴らしまくってた奴の正体は辛木からき甘音あまね

 長い茶髪をツインテールにしている美少女。近所に住んでいて幼い頃から一緒に遊んでいる存在、俗に言う幼馴染。


「おはよう。それでチャイムを鳴らしたのにすぐに出てこなかった理由を教えてもらおうかしら?」


「モンスターを厳選してた」


 甘音は俺を睨みつけてくる。

 やめてくれ防御力が下がる。


「変な宗教の勧誘だと思った」


「………」


 甘音は俺を睨みつける。しかし俺の防御力はもう下がらない。どうやらこの答えも気に入るものではなかったらしい。そう考えていると甘音は深くため息をつく。


「毎朝来てあげてるんだから、私だって分かってるわよね?」


「頼んだ覚えはないけどな」


 俺が反論した瞬間に睨みつけてくる。こいつの技構成「にらみつける」しかないのか?


 それにしても本当に甘音の行動は意味不明だ。俺は小一の頃から「わざわざ家に来なくていい」と言ってるのに、こいつは全く聞き入れてくれない。


「出てこなければ先に行けばいいのに。なんで待ってたんだ?」


「っ!そんなの……」


(そんなの司と一緒に登校したいからに決まってるでしょ!)


 急に黙ってしまった。こうして突然黙るのは甘音の昔からの癖だ。

 しばらく甘音を見ているとハッとしたように自分の世界から戻り続きを話す。


「そんなの、だらしないあんたが心配だからよ。ほら行くわよ」


「はいはい。心配かけてすみませんね」


 俺と甘音は最寄りの駅に向かった。




 ____________


 最寄りの駅から三駅ほど電車に乗り、そこから徒歩十分ほどの場所に俺たちの通う高校がある。

 下駄箱で靴を履き替え、二階に上がるとクラス分けの紙が張り出されている。当然のようにその張り紙の前には大勢の新二年生がいるので全く見えない。


「さすがに見えないな。どうだ甘音?」


「あんたが見えてないのに私が見えるはずないでしょ」


 と言いつつ甘音は精一杯の背伸びをする。だがそれでも俺の背にギリギリ届かず、張り紙は見えて無さそうだ。

 とりあえず人がはけるまで少し待つか。そのわずかの間でも厳選をするためゲーム機を取り出す。だがタイミング悪く、ちょうど前の人たちが移動する。


「ほら、前の人たちいなくなったから見に行くわよ」


「ちょ、まっ、ゲーム機しまうから」


 甘音に腕を引かれながら進み、クラス分けの紙を見る。

 とりあえず二年一組から、天道、天道……あ、先に甘音の名前が見つかった。ついでに同じクラスに俺の名前もあった。


「今年も同じクラスだな」


「そうね。これで小学校から十一年連続ね」


 十一年、改めて言われると凄い確率だよな。


「そこまでくると腐れ縁を超えて運命だな」


「運命っ!?」


(運命って、どうせこいつのことだからそんな気はないってわかってるけど、けど!)


 甘音がまたしてもフリーズしてしまった。

 昔のゲーム並みのフリーズ頻度だな。


「また一年よろしくな」


「う、うん。よろしく」


 俺たちは新たな教室に向かった。



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