侵略が順調の大学生ちゃん Ⅲ
「お風呂頂きました。ホカホカ～」
ほかほか湯気を身体中から上げながら星見さんが風呂場から現れる。
「どうして俺の家の風呂からキミが出てくるのかな？」
「……？」
「いや『……？』は俺のセリフだからね！？」
夕飯後、食器を洗っている最中に姿を消したので自室に帰ったのかなと思ったら風呂から現れやがった。
そして不覚にも風呂上がりの色っぽい姿に少しドキッとしてしまう。
「お風呂気持ち良かったです。後はもう寝るだけですね。お兄さん。今日も一日お疲れさまでした。おやすみなさい」
「どうして俺のベッドに潜るのかな！？ 自室で寝ろ！」
「……やっ！」
駄々こねだしたよこの子。
星見さん、本当にどういうつもりなんだ？
「そこに居つかれると俺が寝れないんだけど」
「私の隣が空いているじゃないですか」
「……まじですか。星見さん」
いくらなんでも成人した男女が同じベッドで寝るのはさすがにアダルティ過ぎるぞ。
妹みたいな存在だけど、その一線は超えて良いものなのかどうか……
「お兄さんお兄さん。私が寝付くまでお兄さんの昔の話を聞きたいです」
「俺の？」
「『黒翼ルシファー』時代のお話に興味津々です。聞かせてください」
「普通に嫌だよ！？」
「聞きたい聞きたい」
「うぅ……」
俺の中二時代か。
聞いていて面白いものでは——いや、この子に関しては俺の中二話こそが最高の肴なのかもしれない。
「ま、星見さんになら話してもいいか。俺が中二病を発症したのは……」
「——あっ、ちょっと待ってください」
言いながら星見さんは俺の腕をぐいぐい引っ張って来た。
急にバランスを崩され、俺はベッドの上でバフンっとバウンドをする。
そのままスッポリと星見さんの腕の中に納まった。
「さっ、話してください」
「離してくださいはこっちのセリフだよ！？ 近いよ！」
「添い寝なんだから近いの当たり前じゃないですか。さっ、早く早く。話して」
なぜ強制的に添い寝をすることになってしまったのだろう。
普通にドキドキするから今すぐ逃げたいけど、星見さんの両手両足が俺の身体に巻き付いてきており拘束から逃れられない。
こうなったら強制的に寝かしつけるしかない。
完全に寝静まった後ならさすがに拘束から逃れることができるだろ。
「『黒翼ルシファー』が誕生したのは高校——」
「お兄さんって彼女います？」
「自分から語らせといて中々本題に入らせてくれないねキミ！」
「……居るの？」
静まった声色で悲し気に見つめてくる星見さん。
潤んだ瞳は破壊力抜群でいつ理性が飛んでもおかしくない。
猛る気持ちをぐっと抑えて、俺は彼女の質問に質問で返してみた。
「居たらどうする？」
「…………」
「痛い痛い！ 無言で締め付けてくるのやめて！ く、苦しいっ！」
「……彼女居るんだ……ふぅん」
「居ないよ！ 居るわけないよ！ 居たらこの状況は修羅場過ぎるわ！」
「居ないんだ！ そっかそっか！ うん。良いことです。お兄さんに彼女なんていらないです」
「いるかいらないかは星見さんが決めることではないのでは！？」
星見さんの拘束がスッと緩む。
相変わらず手足は俺の身体に巻き付いては居るけれど。
彼女の口元はだらしなく緩んでいる。
なんだか嬉しそうだった。
「星見さんこそ彼氏は——」
「居ないです」
「あっ、そう……」
コンマ秒で返答きたな。
「そうだよな。こんなに可愛くても性格がアレ過ぎるから彼氏はできないか」
「～～っ！？」
あれ？ てっきり怒り出すと思ったけど、想定していた反応と違うな。
なぜか頬を赤らめて、驚愕に満ちた表情で俺の瞳を覗きこんでいた。
「わ、わわわわ、私って、か、かかか、可愛い、ですか！？」
「超どもったな。星見さんは普通に可愛いよ。小柄でショートヘアで目が大きくて、それでいて元気いっぱいだし、理想の妹って感じ」
「……いもうと」
何が不満なのか、先ほどまでの照れ顔は一瞬で霧散し、頬を膨らませながら今度はジト目で俺を睨みつけてきた。
「……いもうと……ヤダ」
「ヤダって……」
「私、お兄さんの妹じゃ……嫌ですからね！」
それだけ言い残すと、星見さんは両手両足の拘束を完全に解き、クルッと壁側を向いてギュっと目を閉じていた。
今日はそれっきり星見さんと会話は終焉し、やがて小さな寝息が聞こえてきた。
俺も疲れが脳を支配しており、彼女に続くようにそのまま眠りへと付いたのであった。
大学生ちゃんと黒翼ルシファーくんの物語はまだ続きますが、次回はまた別の男女の小話をお届け致します。
今後の展開と致しまして、小話と小話の間にたまにこのシリーズを織り込んでいこうと思っています。
大学生ちゃん達に関しては二人のペース展開されるはぴねす模様をまったりとお届けできたらいいなと思っております。
