読者としては気になるけれど
最近、日向朔の好きな人は会社にいると言う噂が飛び交っている。
モブとは噂に聡いものというかメイン級役者の耳に噂が入る時はモブからの情報提供が定番だ。
そりゃそうだ、噂のネタは大抵メイン級に関わる内容なんだから。だれがそこら辺のお店の人の噂でもちきるんだって話だ。
『もちきる』って言葉に違和感はあるがそれ以上に気になる噂に耳を傾けるとする。
近くで話している同僚の話によると
・どうやら日向さんが『好き』とされる人間は実在する
・社内にいるかもしれない
と、ここまでが今聞いた・・・いや、聞き耳を立てて入手した情報である。
えっ?お前日向さんに結構興味あるんじゃんて?
何を言ってるんだ、モブだって情報通で無ければ役落ちだ。セリフだって無くなるってもんだ。
まぁ、正直な話ヒロインが誰とくっつくのかモブとしても気にはなる。
特に関わりのあるヒロインなら尚更だ。
物語とは違い現実世界では誰が主人公なのかは明らかではない。勇者とかがいれば別だが現実では倒すべきドラゴンも悪魔も魔王もいない。
もし仮にいた所で生きにくいだろうけどな。
そんな訳でヒロインは誰を主人公とするのか下世話ではあるが噂は噂として聞いておこうと言う訳だ。
以前「あきちゃんなら聞いても良い」と言っていたがそう言うことではないのだ。
本人に聞くのはモブの役目ではない。
それ位の常識は私だって心得ている。
おっと、大事な所を聞き逃してしまう!
浸っている場合ではなかった。
『日向さんが好きになるってどんだけイケメンなんだろう!?』
『いや、イケメンとは限らないよ?だって営業の高島さんもフラれてるんだよ?』
『それはミキの好みの話しじゃーん!』
『でもさ、実際どんな人がタイプか謎なんだよね』
『そうなの!好きな人がいるって事しか分からないんだよね。聞いても秘密で通されちゃうって。』
『え?じゃあなんで社内って話になったの?』
『なんかたまにめちゃくちゃ嬉しそうにしてるんだってさ』
『はぁ?好きな人から連絡来たってだけじゃないのー?』
『んー、ありえるけど仕事中連絡取ってる所見た事ないんだって。あの人手元に置いてるの社用スマホだけで休憩の時すら個人用見た事ないって噂。』
『えー!私無理ー!すぐ触っちゃう、癖で』
『分かる!手が空いてるとすぐ触っちゃうよねー。』
『て事はさ、好きな人って同じ部署内の人なんじゃない?』
『確率は高そうだけどすれ違う可能性のある部署も多いからねー』
『そっかー、絞りきれない訳だ』
『でもでも!可能性として上がってる人何人かいるんだよねー!!』
『えー!!まぢ!?誰?!』
ほほーん?
なるほどなるほど。よく分かったぞ。
まぢでただの噂って事が。
モブが情報提供として出来る発言は『ヒントとなる曖昧な情報』か『噂と称した割と根拠高い情報』のどちらかだ。敵だと別だが。
だから今回のこの噂はどちらにもならない無駄な内容だったと言える。聞き逃しても問題なかったな。
とは言え、日向さんはそれほど秘密主義とは感じないのだがよくここまで隠し通せているなと感心してしまう。
というかなんだその『嬉しそうにしている』って。
どんな情報だ。根拠にもならないと思うんだが人気者とは表情一つでこんなにも言われてしまうのか。
噂にされてしまうヒロインも噂の相手候補にされる人達も振り回されて可哀想なもんだ。
これで相手候補が告白なんてしてフラれた日には目も当てられないな。
『あーきーちゃん!』
聞き耳タイムも終了したので部署に戻ると当の本人から声をかけられた。
目を向けてみると
『どこいってたのー?コーヒーなら誘ってよー』
とほんのちょっとだけ不機嫌そうな顔をしつつも笑顔の日向さんは相変わらず顔がいいなと思った。
と言うかやはりこの人いつも笑顔だし表情は豊かだと思うのだ。
「すみません、お電話されてたので。でも日向さんの分はちゃんと買ってきましたよ。はい、いつものです。」
そういって渡すと・・ほらね。
すっごい笑顔。
『ありがとう、あきちゃん!』
やはりなんの根拠にもならないな。
『嬉しそう』なんて。