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48ルーの怒り

 ジークヴァルトをなだめ、とにかく中へと促したのはロイだった。


 憔悴した様子のスーラに座れる椅子をダイニングで見つけ、ロジが寄り添う。

 ロイが、エマが収穫時期の里帰りのため10日程の予定で王都を旅立っていたことをジークヴァルトとルイス王子に説明した。


 二人は顔を見合わせ胸を撫で下ろしたが、ジークヴァルトは戸口に立つ警備隊隊長に視線を投げた。


「それで?これはどういうことだ?」


 警備隊長は冷や汗を流しながら説明した……

 定時の巡回を昨夜も欠かさず行っていたが、異常は確認できず、昨日から外出していないエマも在宅していると思い込んでいた。

 早朝の巡回の際、近所の住民が開店時間が過ぎても店が開かないことをいぶかしんでいたため、警備隊が扉を破って入った先で賊に縛り上げられていたスーラ夫婦を発見した。


 エマが無事だったのはたまたま不在だったという偶然のおかげだ。

 店の主人ロジの頬には明らかに殴られた傷があり、賊にこれだけ店が荒らされた状況で夫婦の命が助かったことも奇跡的だったと言える。


 警備隊長は勤続二十数年間のキャリアの中で最大の失態をおかしたことになる。 

 宰相補佐ジークヴァルトからは巡回の強化と、この店で働く娘が外出する際の見守りを命じられたが、城への知らせで自らすっ飛んでくる程の重要度なら24時間警護をするべきだったと猛省した。そして、宰相補佐の隣に立つ金髪の青年の正体にもはや気づくのが恐ろしかった。

 

 だが、この窮地を救ったのは…


「どうもこうも、すべてあなた方のせいだろうっ!!」


 ルーだった。


 気色ばむジークヴァルトには目もくれず、ルーはスーラたちにかけ寄り「ご無事でよかった」と労わると、「エマは昨日の早朝にうちから停留所までおくって、無事乗り合い馬車に乗りましたから」と話を続けた。


 聞き捨てならない話にジークヴァルトはルーの肩を掴み振り向かせる。


「早朝にうち(・・)から?」


 剣呑とした声で頭一つ分下のルーに問うと、ルーは掴まれた肩の痛みに少し顔を歪めたが、ジークヴァルトの手を肩からもぎ離すと濃い藍色の瞳の眼を細め冷たく見つめ返した。


「エマは最近、監視されているように思うと言っていました。

だから少しずつ旅の荷物を私の家に運び、出発前日の夕方いつもなら外出しない時間を見計らってうちに来て一泊し、翌日の早朝に出発しました。

それならば、警備隊は彼女の不在に気が付かないでしょう」


 ルーの説明に、まんまと裏をかかれて盛大に頭を抱える警備隊長に気づく者は誰もいない。


「こうなる危険性が分かっていたのでしょう?

そして、犯人が誰なのかもあなた方は分かっている。

自分を取り巻く思惑も顧みず我儘に行動する王族や貴族のせいで、力無い者が振り回され何十倍も迷惑することをあなた方は分からないのですか!

例えエマが無事でも自分のせいでスーラさんたちを危険に晒したと彼女が知ったらどう思うか、彼女ならきっと自分を責めるでしょう!」


 そう畳み掛けるルーの物言いは、明らかに二人の身分を承知した上で怒りを露わにしていた。

 即不敬罪ものの態度だが、たしかにこの惨状をエマが知ればと思うと、悔しいがこの薬草屋の言う通りでジークヴァルトは何も言えなかった。


 ジークヴァルトとルーの睨みあいは、まるで二振りの鋭い銀の剣が鍔迫り合いをしているかのような状況だったが、先に引いたのはルーだった。

 引いたと言うよりも、こんなことをしている場合ではないといった感じだ。

 ルーが椅子に座るスーラにエマの部屋を見せてもらってもいいかと聞いた。


スーラが力なく頷く。


「二階の左手の部屋だよ。でもあいつら、何かを探してた。エマがどこかに隠しているはずだって。

家中ひっくり返したけどみつからないから、とにかくエマの物は全部に持って行かれてしまったよ…なにもかも…。

エマの部屋にはもうほとんど何も残ってないよ」


✳︎

 ロイの案内で…案内と言ってもエマの部屋は階段を上がったすぐだった。


 階段を上がりきった左手には戸口まで薄いカーペットがずり出た部屋があった。


 部屋は簡素だ。ベッドに小さなテーブルセットとタンス。

 だが、家具類は引き倒されベッドカバーやシーツはナイフで引き裂かれ破れていた。

 部屋には私物らしい私物はなにも残されていなかった。

 ただ、引き倒されたタンスから少しばかりの衣類が飛びだし、その中に春の舞踏会でエマを初めて見たとき着ていたピンク色のリボンのドレスがぐしゃぐしゃになってはみ出ていた。


 ジークヴァルトが膝を付きドレスの端ををそっと手に取る。

 立ち尽くすルイス王子が、「昨晩エマがここにいたと考えたらゾッとする」とつぶやく。


 あまりの凄惨(せいさん)さにジークヴァルトの胸が軋むようにぎりぎりと痛み、エマを守っているつもりでいた不甲斐なさに拳を握りしめた。


 エマの部屋を家具をさけながら見回していたルーが小さく呟いた。


 ルイス王子が顔を上げる。


「無い、とは何のことだい?」

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