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47知らせ

 ジークヴァルトは、あ然となって聞いていた。


ーーー「そういえば、ロイさんが言っていたのですが。ここ何ヶ月か若い方が急な体調不良でお仕事を休まれたりするそうなのです。

何か流行っているのでしょうか。

これから暑くなりますし、心配だなと思って」ーーー


「と、以前聞かれたから、『心配ない』とだけ言ったんだ。

そしたらエマは言葉の意味をすぐに理解した。

本当に賢い……どうしたんだい?」


 エマの周辺を警備させているのは、あの植物との接触をさけ余計なことに巻き込まれないためだ。

 その危険性をルイス王子も充分知っているくせに、ついでの話のように飄々としている態度が理解出来ない。

 ジークヴァルトはルイス王子の胸ぐらめがけて手を伸ばした。


「いつそんな話をっ!何故それを早く言わないッ!!」


 手が届く寸前で、ルイス王子は一歩下がってそれを避ける。


「落ち着け。

話したのは社交シーズン直前にエマと会ったときだよ。ほら、彼女が皿を取りに行った。

僕が『心配ない』と言ったらエマはすぐに理解したよ。毒草の件は僕らが動いているって。だからほっとして笑ったんだ。

賢いよね。

賢いからこそ、下手に動かないさ。

僕らが動いているならエマがわざわざ首を突っ込む必要はない。

そして、踏み込み過ぎれば僕らに『魔女』だと知られる危険性があるからね」


 ジークヴァルトは沈痛な面持ちでこめかみを押えて首を振った。


「あの時か……。ルイス、一ついいか?」


「なに?」


「だったら、何故あの時あんな聞き方をした?

あんな……誘惑するような」


 ルイス王子はニヤリと口角を上げた。


「君が見ていることは分かっていた。

君はエマのことを悪く言っていたけど、初めて彼女を見たときは、とても良い印象を持っていたじゃないか。とてもね。

それを世間では一目惚れと言うんだよ。

だから、早く自分の気持ちに気づけるようにしてあげようと思ったのさ。

嫉妬しただろ?」


 ジークヴァルトは、もういいと手で制した。


(ああ、そうだ。あれは嫉妬だ。

今ならわかる。

そしてこの幼馴染みのお節介のせいで、とんでもなく酷い言葉をエマに投げつけてしまったのだ。

大丈夫、いまはエマにきちんと謝罪し、赦しを得ている。

だが、もう思い出したくない。)


「ーーそうか、分かった。

話を戻そう。

エマがあの毒草を知ることになったのはなんだ?あの薬草屋のルーという青年が何か関係して、」


 その時、ジークヴァルトの言葉を遮るように扉がノックされた。


 許可と同時に入ってきたのは、侍従…ではなく侍従の格好をしたジークヴァルトの部下だった。

 それをみただけでジークヴァルトの心臓はひやりとした。なぜなら、エマの様子を報告するよう指示していた者だからだ。その部下の慌てた様子にただ事でないと予想できた。


 報告を聞いたジークヴァルトが鋭い目つきで「馬をっ」と命じると部下は「森にございます」と応えた。

 ジークヴァルトはルイス王子と共にすぐさま執務室をで、何ごとかと振り返った扉前の近衛兵に、


「しばらく休憩に入る。庭を散策するだけだ。護衛は必要ない」


と、命じた。受けた衝撃を隠すために殊更冷静な声で。

 近衛兵をぞろぞろ連れて城下へ行くわけにはいかない。いつも通りの様子で長い廊下を歩いた。

 だが、角をまがり見送る近衛兵たちの視界からはずれると、その次の瞬間、二人はおもむろに近くの大きなアーチ窓を開け放つと、二階にも関わらずヒラリと飛び降りた。


 危なげなく着地すると猛然と走ったさきは、執務室近くの庭園に隣接する森の中だ。城下へ行くときはいつもそこに馬を準備させていた。

 二人は身分を示すような豪華な上着を引きちぎるように脱ぎ捨てるとシャツとタイの姿になって素早く馬に飛び乗り、城下を目指し全速力で駆け出した。


 城下を目指し疾走する二頭の騎馬。

 街に入ってからは幾分スピードも落ちたが、それでも走ってくる騎馬に荷馬車や馬車が慌てて横による。

 街の人たちは何処かの貴族のバカな息子たちが馬を暴走させているのだろうと、走り去る騎馬をあきれ顔で見送った。


 騎馬を駆るジークヴァルトは祈るような気持ちだった。とにかくエマに会いたかった。ただただ、一刻も早くエマの無事を確かめたかった。


 遠目でもスーラのパン屋の前には人垣ができ、ただならない雰囲気を感じた。


 店に近づいた二人が目にしたのは、警備隊員たちが壊れた家財や破れたカーテンのようなボロ布などを運び出す姿や、店先に立ち尽くすスーラ夫婦とそれに寄り添うロイの姿。そして、ヒソヒソと噂しあったり痛ましそうに見守る、近所の住民が囲んでいる状況だった。


 騎馬の二人に気づいた警備隊の隊長がすぐさま人垣を退かし道をつくる。


 店先まできたルイス王子とジークヴァルトが酷く荒らされた状況に息を飲む。


「なんてことだ…」


ルイス王子は動揺を隠さない。


 ジークヴァルトは警備隊長の服を鷲掴むと苛立ちながら叫んだ。


「エマはどこだっ!!」

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