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44唐突に

 夏の終わりも近づき、社交のシーズンももうすぐ終わる。

 半ば仕事のようだったパーティーがやっとお開きになるにしたがい次にやってくるのが、来年度予算の仕事だ。

 仕事量が多いため執務時間を早めてとりかかっている。そのため、図書館に行って以来ひと月近く城下には行けず、最近ルイス王子の文句がくどいほどに多くなってきた。


 かたやジークヴァルトのペンは今日も軽やかに淀みなく進む。

 仕事が面白いように片付いていく。


 ジークヴァルトには植物図鑑を返してもらうというエマと二人で合う名目がある。

 公爵家へ招いて好きな本を貸すと言えばエマは喜んでくれるだろうか。街で待ち合わせするのもいい。エマが気後れしない程度の店だとどこがいいか……などと、真面目に仕事をする無表情の下で楽しく悩んでいた。


 後で楽しみが待っていると思うとこんなにも頑張れるものなのだなと頬が緩みそうになるが、ルイス王子に気づかれるわけにはいかない。

 無表情を顔に貼り付け、せっせとペンを動かす。


 会えない間のエマの行動はジークヴァルトの手配により報告させている。


 城下の警備を担当する警備隊の巡回路に王子の立ち寄り先としてスーラの店を組み込み、頻繁に巡回させるようにした。

 お忍びでの立ち寄り先だと明かすことは王子の警備上よろしくないように思えるが、春以降何度も訪れ、少し調べれば分かるような状態だ。

 むしろ表立って警戒することは、良からぬ事を考える者への牽制になるだろう。


 さらにエマが治安の悪い地域に入らないよう、潜入させている部下たちには彼女を周知させた。

 まさか庶民の娘が公爵家の嫡男の本命の想い人とは想像出来ていないだろうが、『お気に入り』程度には解釈しただろう。

 エマには申し訳ないが、そのように思わせていた方が彼らも心構えが違ってくるはずだ。

 幸い店の休憩時間を利用したエマの外出時間は一定で、外出先も図書館やルーの店、市場や行きつけの商店などのため目が届き易く警護し易かった。


 エマのことを考えながら、早朝からの執務もしばらくたった頃。

 今日はやけに大人しく真面目に仕事をしていたルイス王子が唐突に、


「ジークヴァルト、そろそろ調べようと思ってるんだ。

エマのことを」


と投げてきた。


 ジークヴァルトのペンを持つ手が思わず止まった。

 ルイス王子が出来上がった書類を決裁済みの箱へ放り込みながら、


「こんなに何度も会っているのによく知らないなんて変じゃないか?」


と、こともなげに話を続ける。


 ジークヴァルトは再びペンを動かしながら同じトーンで応じる。


「調べてどうするんだ?城下に行くようになってもう数ヶ月だ。今更だろう。忍んでたまに立ち寄る店という位置づけでいいのではないか?あのパン屋の素性はハビ子爵家アルベルトの友人、行政官ロイ・ミルドの親戚で十分だろう」


 だが、


「エマはロイの親戚ではない」


と、ルイス王子がジークヴァルトの意見をばっさりと切って捨てたことにジークヴァルトは不穏なものを感じ、ついに手を止め顔を上げてしまった。


「ーーーテューセック村。

僕が何も気づいていないと思っていたのかい?

意外だと驚くだろうが、報告書は全て読んだ。さすがに僕の結婚に関わることだからね。

だからテューセック村の記述も記憶している。

君、エマへの誤解でぐるぐる考えて全然気付かないんだから。

これもある意味、恋は盲目というのか?

君がエマの正体にやっと気づいたと分かったのは、僕の密偵から『城下の警備隊がスーラの店を頻繁に巡回している』と報告を受けたからだ。

エマの為に君が動いたんだろ?

成り上がり願望の強い女という酷い誤解は解けたってことかな?」


 さすがに衝撃を受け愕然とするが、ジークヴァルトは何とか自分を立て直そうとする。


「最…初から?」


 だがそんな感情の揺れが手に取るようにわかるのだろう。

 ルイス王子は、かわいそうな子を見るような目をしてため息をつくと、腕を組みながら背もたれに体を預ける。

 革張りの椅子がぎしりとしなる。


「ああ、そうさ。

そして、謁見で彼女の毅然とした姿を見たとき、『この人だ』と思った。

僕が思いつきで昼食会に招いたと思ったのかい?

実際エマと話したり、会ったりしてからは『魔女』だという確信が強くなるばかりだ。

君は成り上がり願望の強い(したた)かな娘だと思っていたんだよね?」


 話を聞くにつれ目つきを鋭くするジークヴァルトにルイス王子は悠然と言う。


「言ったよね、僕。かまいたくなっても知らないからねって」


ーーー「勝手にしろ」


「ああ勝手にするよ。……その代わり、後からかまいたくなっても知らないからね」


「それは、絶対ない」


「ふーん、『絶対』ね」ーーー


「そして、これも言った。『側室なんてあり得ない』って。

あたりまえじゃないか。

彼女は『正妃』になり得る娘なんだから。

ジークヴァルト・フォン・ホランヴェルス……お前は僕から…いや、王家から『魔女』を盗むつもりか?」

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