22ルーの察し
城から帰った翌日、エマはルーの家のダイニングテーブルにぐでっと脱力し突っ伏していた。
結局、ルーと会えたのは一週間ぶりくらいだ。
舞踏会へ行く前はルーに「楽しんでおいで」と言ってもらったのに。
ルーは天秤で薬草を計っている最中で、目盛りから目を離さない。
だが仕事に集中しながらも、さっきからテーブルに突っ伏しながらダラダラと話すエマの相手をしてくれていた。
「厄介事に巻き込まれないようにって、言っていたのに。
舞踏会で令嬢を助けて世継ぎの王子の目に留まり城に呼び出されたなんて、厄介事ど真ん中大当たりじゃないか」
やれやれとルーは呆れる。
舞踏会での騒ぎの顛末から城での昼食会強制参加まで、怒涛のごとくエマを襲った出来事は厄介事以外何者でもなかった。
ちなみに、エマはジークヴァルトについて余計なことは言わなかった。
ひどい誤解をされ冷たく突き放されたことは言ったが、自分が抱いた想いは言っていない。
例えば、もしも軽~いノリで言ったとしても、ルーなら「は?エマは自虐趣味なのか?」とバッサリ斬って捨てられそうだから。間違っても共感する答えは返ってこないだろう。
誤解され嫌われているからじゃあ私も嫌いになってやる、とは思えないこの複雑な気持ちを上手く説明できないし、いくらルーにでも、男の人に一目惚れしたなんて言うのは恥ずかしすぎる。
それに次に会う機会があるならまだしも、もう終わったことだ。
「その宰相補佐、見る目のない了見の狭い男だ。そんな男が次代の宰相とはな」
ルーは小馬鹿にしたようにふんと鼻をならす。
エマは押し込めたこの想いはますます言わないでおこうと思った。
「それに王子は『ザ・王子様』?金髪に真っ青の綺麗な瞳。気さくで大らかな雰囲気。すでに側室候補が三人。しかも彼女たちの高尚な趣味に無知とは。
その王子は私の一番嫌いなタイプだ」
エマからの情報をルーが一気に言ってしまうと、随分出来の悪い王子のように聞こえるのは何故だろうおかしいなと思ったが、嘘は言っていない。
仮にも住んでいる国の王子をバッサリと嫌いだと言い切ってしまうのはどうかと思ったが、ルーの身分は隣国の公爵家令嬢だ。許されなくもないだろう。
ところで、
「タイプって、ルーにも好みのタイプの男の人っているの?」
エマはルーほどの美人がどんなタイプの男性が好みなのかすごく興味を引かれた。
一方、目盛りに集中していたルーは力なく脱力していたエマが、パッと顔を上げ心なしか目も生き生きとしているのを見てとると、うーんと宙を見ながら考えだした。
「私の兄のような男性だな。賢く、腕もたつ。一見物腰は優しげだが決断力があり行動力もある」
「へぇールーの理想はお兄さんかあ。お兄さんって素敵な人なんだね」
「ああ、私の三つ上だが早くから精神的に大人びた人だ。完璧であろうと努力を惜しまない人でもあるな」
(そっか生まれながらに完璧な人なんていないよね。
上級貴族ともなるとどこの国でもハイスペックになるよう教育されているのかも。
将来重役に就いた時いろんなことが秀でてないと下の人たちが付いてこないもんね)
あの完璧そうなジークヴァルトも公爵家の人間として地道に努力を重ねてきた結果なのかも知れないと想像する。
万が一会う機会があれば憧れて見上げるだけじゃなく、人としての内面を知りたいなと思う。
(だからそんな機会もうないってっ!)
嫌われて哀しいくせに、でもまた会いたいと思っている自分は何なんだと分からなくてなって、足をバタバタとさせがばりとまたテーブルに突っ伏す。
ルーはエマが宰相補佐ジークヴァルトのことを話したとき、哀しげな顔をしたのに気づいていた。
いつもの彼女なら酷い誤解をされたと怒っているはずだ。なのに哀しげな顔をしていた。
何となく察しはつくが、彼女が言わないのにルーから詮索するつもりはない。
さっきまで脱力していた彼女が少し元気が出たようなので今は良しとしておく。
ルーはふっと微笑むとまた天秤に集中した。




