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12褒美

 あの舞踏会の日から3日が過ぎた。


 よく『夢のような』と例えがあるが、エマにとって確かにある意味夢のような舞踏会だった。

 あの日、髪とドレスを乱してコソコソ帰ってきたエマを見てスーラは抱きしめ、ロジはロイの胸ぐらを捻りあげた。

 エマが必死で止めて事情を説明した。


(あの時は本当にたいへんだった。最後はあんなみっともない姿みんなに見られて引かれちゃうし、笑われちゃうし…

あぁ、忘れてしまいたい。

今日はルーの家に絶対いく!ルーの美味しいハーブティー飲みながらおしゃべりして嫌なことは忘れるんだ!)


 あれから充分休息し、やっと日常が戻ってきた。

 今は、キッチンで朝食を作っている最中だ。


 食事付き住み込みのお礼に、毎日の朝食と昼食の準備はエマがしている。


 今朝のメニューはフレンチトースト、この世界ではミルクトーストと言われている。


「上手に、焼けた!」


「いい匂いだね。ミルクトーストかい?」


「おはようございます!ちょうど焼けたので、熱々をどうぞ。ロジさんも呼んできすね」


 エプロンを取って、工房にロジを呼びに行こうとしたとき、表でガラガラガラと馬車の音がした。


コンコンコン


「?誰だろうね」


 スーラが、よっこらしょと席を立ってドアを開けると、そこにはアルベルトが立っていた。


「「アルベルトさま!?」」


 思いもかけない来客にスーラとエマは共に驚きの声をあげた。


「朝早くからすまんな。いいか?」



 アルベルトの突然の来訪に困惑しながらも招き入れると、エマたちは朝食を後回しに話を聞くことになった。


 リビングの布張りのソファに座ったアルベルトの顔つきは神妙で少し緊張している。

 エマがアルベルトの前に水の入ったグラスを置くと、すぐにゴクゴクと飲みふうと一息ついた。


 スーラはロイの友人アルベルトとはすでにある程度の面識はあるようで、貴族のアルベルトに対して気負う様子はなかった。

 だが、友人のロイを通さずにアルベルトが直接来訪する目的が全く予想できず、スーラとエマはまた顔を見合わせた。


「エマ、今日は君に用があってきた」


「私に?」


「ああ。王家からの使者として来たんだ」


「王…家?」


 耳慣れない言葉にエマはそのまま聞き返す。


「先日の舞踏会の際、令嬢を助けた件で君は王家から褒美を賜ることになった」


 アルベルトは残ったグラスの水を飲み干し口内を潤すと今度は少し興奮気味に話し出した。


「昨夕、父に城からお召しがあった。世継ぎの王子付き宰相補佐様からこの件を伝えられたのだ。

褒美を賜るエマの知り合いだということで、ハビ家の者が伴って登城するようにと。それで父が俺に君を伴うようお命じになった」


「え?ええっ!!」

「おや、まあ!」


「ついては、今日の昼前に登城するように、とのことだ」


「えええっ!!!」


「王家の方々とは王宮警備隊の職務上お会いすることはあっても、子爵家の次男である俺が直接王家の方に謁見することは初めてなんだ。

この度は世継ぎの王子から直接褒美を賜る。

エマ、分かるか?これは物凄いことなんだっ!俺は緊張していまから震えそうだ」


 緊張していると言いつつもどこか嬉しそうなアルベルト。


 たかが庶民の娘を伴ってことであるのに、雲の上の存在である王族に謁見できることを喜ぶアルベルトは表裏なくこの国の王家を尊敬する気持ちをもった忠誠心の厚い貴族のようだ。


 だが、エマにとって王家と言われても知識として知っているだけで、写真もないこの世界では多分現実にいるんだろうなという程度の存在だ。


「まあ!すごいじゃないかエマ!」


「正式な登城となれば、庶民といえども普段着では許されない。

まあ庶民の娘が登城するというとこが稀なので伴うように命じられた我が家でも困惑しているのだが…

とにかく妹の物を使って見た目だけでも正式な正装の支度をしようということになった。

時間がない。今すぐ一緒に来てくれ」


「まあ!エマ、よかったじゃないか!

エマ、ご令嬢を助けたんだからうんとご褒美をもらっておいで。

アルベルト様、よろしくお願いします」


 エマを置いてけぼりにスーラとアルベルトの間で話がどんどん進んでいく。


(は?え?ちょ、ちょっと、待ってくださいっ。)


「あ、あの、そんな、王家?褒美?妹さまのご衣装?あの、もうですか?今ですか?!」


「あと5時間ほどしか時間がない。

屋敷でもお前の支度をメイドが用意して待っている。そのままでいいから直ぐに来てくれ」


「5時間もあるじゃないですかっ!それにまだ朝ごはん食べてないです!」とは言える雰囲気ではなかった。


 とにかく来い!とばかりに身一つで馬車に放り込まれると、スーラが機嫌よく手を振って見送るなかエマは子爵家へと連れて行かれた。


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