第五十四章 亮太、テロリストの正体を暴く
マスコミは、何故、要人暗殺捜査本部ではなく捜査一課に協力要請したのか亮太に確認した。
亮太は、「勿論、要人暗殺捜査本部に事情を説明して協力要請したわ。でも自分達が捜査している人物が狙撃者だと主張して相手にされませんでした。自分達以外に狙撃者を特定できないとプライドがあったのではないですか?すでに彼女はライフルを構えて狙撃の準備をしていたわ。船川副総理が講演場所に到着すれば、間違いなく暗殺されるわ。彼女はライフル以外に何を持っているのか不明で、私一人で取り押さえる自信がなかった為に、警視庁捜査一課の知り合いの刑事に協力要請しました。」と説明した。
捜査一課も、「要人暗殺捜査本部はプライドが高く動いてくれなかったので、やむを得ず、私達、捜査一課が動きました。確かに陽子さんは探偵あがりかもしれませんが、今までの実績を考慮すると、充分信頼できる情報だと判断しました。」とインタビューに答えた。
亮太は、気心の知れた隆一を指名したくて、要人暗殺捜査本部に房子の職業などの詳しい情報は知らせず、房子が狙撃犯だと伝えたので、要人暗殺捜査本部は、そんな若い女性が何故ライフルの経験があるのだ?と狙撃犯だとは信じられず、ガセネタだと判断したようでした。
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そのインタビューを見た秋山総理大臣は、「私の秘書が容疑者を特定して伝えても無視して見当はずれの捜査をするとは何事だ!責任者と対応した刑事を処分しろ。」と激怒して、二人を処分するように警視総監に指示した。
警視総監は、要人暗殺捜査本部の責任者と対応した刑事を呼び出して、「ひとつ間違えれば船川副総理は暗殺されていました。要人暗殺捜査本部は何を捜査していたのだ!総理大臣も激怒されていて君達を処分しろと指示された。今日付けで、所轄署に左遷します。総理大臣の秘書が容疑者を特定しなければ、大変な事になっていた。総理大臣が直属の秘書に任命しただけの事はあるな。今後、テロリストの背景などの捜査は捜査一課に任せる事にした。要人暗殺捜査本部は責任者不在となる為、捜査一課の下につける。」と指示された。
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隆一が房子を取り調べたが、黙秘権を盾に何も喋りませんでした。
房子のスマホを調べたが、内容は全て消去されていた為に科捜研で復元した。
房子が最後にテロリストにメールした内容は、“警察にばれた!私を暗殺して。”でしたので、房子の護衛を厳重にして、拘留中は自殺防止のため、後ろ手錠で猿ぐつわをされていた。
さらにスマホを調べると、門山大蔵大臣が京都訪問した際に暗殺する計画に気付いた。
去年、門山大蔵大臣が大阪訪問した際に、房子が狙撃しようとしたが、狙撃には警戒していて狙撃不可能でしたので、半年後に京都訪問した際に、宴会に紛れて毒殺する計画で、既にテロリストが芸者として潜入している事に気付いた。
隆一は上司に報告して、京都府警捜査一課に協力要請した。
京都府警捜査一課長は、テロリストは既に芸者として潜入していると聞いて、芸者の経験がある広美が係長を務める三係に担当させる事にした。
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一課長から説明を聞いた広美は、「警視庁から担当刑事がくるまで待て?冗談じゃないわ。テロリストは既に芸者として京都に潜入しているのでしょう?芸者といっても花町とは限らないわよ。先斗町などにも芸者はいるわよ。」と焦っている様子でした。
広美は、京都市の全置屋を対象にして、経験者も含めて一年以内に採用した芸者のリストを作成するように部下に指示した。
作成したリストの芸者の中で、不信な動きをする芸者がいないか、所轄署にも応援依頼して調べていた。
三係に一課長がきて、「高木君、警視庁から担当刑事が到着しました。特に紹介する必要はないですね。」と担当刑事を三係に連れて来た。
広美は、「また、隆一なの?あなたはどこにでも顔を出すわね。あら、陽子さんも一緒なの?よろしくお願いします。」と挨拶した。
隆一は、「俺と陽子さんと何故こんなに違うのだ?」と不愉快そうでした。
広美は、「何言っているのよ。今回の狙撃者を特定したのは陽子さんでしょう?優秀な刑事を集めて結成した要人暗殺捜査本部も全く特定できなかったそうじゃないの。陽子さんと隆一とでは比べ物にならないわよ。」と横目でチラッと隆一を見た。
隆一が、「何故、京都なの?」と門山大蔵大臣は他の場所にも訪問しているのになあと不思議そうでした。
広美は、「狙撃が不可能だから毒殺しようとしたのでしょう?門山大蔵大臣は、キャバレーのようにざわざわした場所よりも、お座敷でゆっくりしたい性格だと先日陽子さんから聞いたわ。他府県に比べて京都は芸者が多いから潜入しやすかったのではないかしら。」と予想していた。
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後藤刑事が、「係長、祇園の芸者に不信な芸者を発見しました。」と報告した。
隆一の目の色が変わり、「どう不信なのですか?」と身を乗り出した。
後藤刑事が、「あら、隆一さんが担当刑事なの?普通芸者は、他の芸者やお客様と親しく話をするのですが、不信な芸者は、他の芸者との交流が少なく、お客様との会話も少なく、いつも一人だけ離れています。写真を入手しようとしましたが、写真嫌いで写真がないそうなのよ。踊りの稽古などにも身が入っていない様子で、何故芸者になったのか不信です。」と説明した。
広美は、「それだけだとなんとも言えないわね。その芸者の名前は?」と広美が芸者として接触しようと考えている様子でした。
後藤刑事は、「春やっこです。」と報告した。
広美は、「了解。その芸者については私が調べるわ。その他にも怪しい芸者がいないか捜査を続行して下さい。」と指示した。
広美は母に電話して、情報入手しようとした。
「私だけれども、祇園で芸者の取り纏めをしている置屋はどこか知らない?」と、取り纏めの置屋を確認しようとしている様子でした。
母から取り纏めの置屋を聞いた広美は、早速連絡していた。
「花町の鶴千代どす。祇園の芸者はんと交流したいと思っとります。明日にでも芸者数名とよせてもろおてもよろしゅうおますか?十時ごろ、よせてもらいますので、昼食を御一緒させて頂けませんか?」と祇園に乗り込もうとしている様子でした。
「明日とはえらい急ですね。他でもない鶴千代姉さんの頼みなので引き受けましょう。」と広美が交渉した結果、提案が了承されたので準備を始めた。
広美は、「明日は、後藤刑事も同行願います。」と指示した。
隆一が、「えっ!?後藤刑事も芸者になるの?」と興味本位で聞いた。
広美は、「いいえ、芸者はうちの置屋から数人連れて行くわ。私がそれとなく春やっこと話をしますが、途中で出て行くか最初から来ない可能性があります。その後の事を後藤刑事にお願いするわ。もし、春やっこがテロリストだったら一人では危険だわ。隆一も同行して。」と指示した。
亮太が、「俺も行くよ。」と立候補した。
隆一が、「そんな手の込んだ事をしなくても、置屋に春やっこを紹介して貰ったら・・・」と広美の考えが理解できない様子でした。
広美は、「隆一、何考えているのよ。もし、私達が春やっこを捜していると悟られると危険だわ。房子さんもライフルを乱射して自殺しようとしたのよ。もし、お座敷や置屋で銃を乱射すればどうなると思うのよ。私が気付かれないように春やっこを特定しますので、後藤刑事、後をお願いします。二人とも防弾チョッキを着用の上、拳銃を携帯して下さい。陽子さんには拳銃は無理ですが、防弾チョッキを貸し出しますので着用して下さい。」と隆一に幻滅していた。
隆一は、「危険な任務だから、女性刑事じゃなく男性刑事のほうがいいのではないの?」と広美の人員配置に疑問を感じていた。
広美は、「テロリストは女性なので、女子トイレなど、男子禁制の場所に入る事も考えられるわ。そこで変装してテロリストを見失うと大変な事になるわよ。そのような事を考慮すると、女性刑事のほうが都合いいのよ。」と説明した。
広美は母の初美に電話して、「私だけれども、明日、朝一番から芸者を三人ほど私に貸してくれない?」と依頼した。
初美は、「突然何?変な事件にうちの芸者を巻き込まないでよ。」と心配していた。
広美は、「花町の芸者代表として、祇園の芸者と交流するだけよ。情報交換してお昼ご飯を一緒して解散するので、三時ごろには置屋に戻れるわ。だから、経験のある芸者をお願いするわ。でないと、花町の芸者の恥を晒しに行くようなものよ。」と危険な事はないと安心させた。
交流当日、広美は小菊と小春と小梅を連れて祇園に向かった。
広美は祇園の芸者と交流しながら雑談していると春やっこを発見した。
一旦トイレだと席を外して、春やっこの写真を気付かれないようにスマホで撮影して後藤刑事に送信した。
広美は、「後藤刑事、春やっこの写真を送信しました。話をすると芸者になってから半年になるにも関わらず、芸者の事は何も知らないわ。芸者になろうとしている様子が見られない。何か他の目的がある様子でプライベートは何をしているのか他の芸者も知らなかったわ。確かに怪しいわね。彼女の事を調べて下さい。」と指示した。
しばらくすれば後藤刑事から着信があった。
「履歴書に記載されている名前も住所も出鱈目でした。交流終了後、彼女を尾行して調べます。」と報告があった。
広美は、「了解。交流でわかる範囲の事は調べるわ。彼女と故意にぶつかった時に、何か金属のようなものを持っているようでした。銃の可能性があります。相手はテロリストの可能性がある為、充分注意して下さい。」と油断しないように警告した。
亮太が、「もし、尾行に気付かれたら深追いすれば銃を発砲する可能性があり、一般市民を危険にさらす事になります。すぐに中止できるように、三人、別々に尾行しましょう。」と三人とも離れて尾行した。
最初は隆一が尾行して、正子と亮太は、春やっこの前方を歩き、別れ道では、正子と亮太が別れていた。
隆一が携帯で、「陽子さんのほうに行ったよ。」と知らせていた。
やがて隆一が気付かれて、前方を歩いていた正子が立ち止まって、携帯で電話している芝居をして、春やっこが通り過ぎるのを待ち、尾行を交代して、正子が気付かれると亮太が尾行した。
亮太も気付かれると、亮太は男装していたので上着を脱いで、ブリッコ服にして帽子も脱いで、長い髪をたなびかせて女装で尾行して、やがて春やっこの目的地まで尾行成功した。