第二回 格闘遊戯
「ヴァンサン達は座って待っていてくれ。次は、うららとコユキの番だな。」
うららは座ったままで、その意見を否定する。
「私は自分に満足しているから、いらないわよ。」
だが、春人の意見が覆る事はなかった。
「そうは言っても、うちの戦闘担当の能力は、最優先で強化出来る時に強化をしておきたい。レムという前例があるからな。レムが言っていた事を思い出してみろ。レムは最強だが、転生を繰り返しているから、現段階ではそれ以上の力を持つモンスターがいるんだぞ。」
うららは戦闘は任せてと言っておきながら、邪神レムレースが来た時に春人に庇われていた。レムの素早い動きにまったくついて行けずに、春人が一度やられてしまったのを、自分の責任だと感じている。その事を思い出して、顔色を曇らせる。あんな想いは二度としたくはないのだ。
「……そう言われるとそうね。私は調子に乗っていたみたいね。お願いします。」
「うん。あとは便利なスキルもいくつか付けておくよ。コユキもそれで良いか?」
春人は続いてコユキの方を見る。コユキは恐る恐る春人の顔色を窺っていた。
「……うちは荷物持ちだけど、強くなった方が良いのかな?」
「どちらでも別に構わない。だが俺が魔物に触れない分、新たな天賦の才を付けておきたいな。コユキが許してくれるなら、サポートから剥ぎ取りまで有利となるものを選ぶよ。それに、今のままだと耐久力が心配だからな。今回の討伐で、レベルももう少し上げるぞ。」
「分かったんだよ。役に立たなくて、春人のパーティーから追い出されたくないんだよ。」
春人はコユキがまだ追い出される事を心配しているのが、不憫だった。それだけで今までのコユキの苦労が分かった。笑顔でコユキの頭を撫でる。
「安心しろ。コユキはもう俺達の仲間なんだ。役に立たないからと追い出す事はない。子供のうちはな。」
コユキは春人にだけは子供扱いされる事が嫌だった。顔を真っ赤にして抵抗する。
「酷いんだよっ。うちは、こう見えてもう大人だもん。」
「あはは。ごめんごめん。じゃあやるぞ。【 格闘遊戯 】矮人」
春人がテーブルから離れ、歩きながらスキルを使うと、少し離れた場所にドワーフが現れる。真の友情から見たら、それはまるで召喚魔法。この異世界には、そんな力を持つ者はいない。いたとしても、逸話や空想の類なのだ。
ヴァンサン達はびっくりして、席を立って凝視している。
ドワーフが春人を見て笑い出した。
「がはははは。小童。久しぶりだわい。よくぞ儂を呼び出したな。」
「まあ。次回で仏が出現していない限り、今日、呼び出すのはあんただけだ。」
「そうか。天賦の才の付与が一番使えるからな。」
ドワーフの答えに、春人は少し考える。
「前言撤回。使えると言えば猪もいたな。あれは人間にも上位のスキルが付与出来たんだった。コユキのすぐ死ぬ問題はそれで解決しよう。」
「まあ。そんな事はどうでも良いっ。久しぶりに――」
『 ――Ready GO! 』
矮人の話の途中で、戦闘開始のアナウンスが流れる。真の友情のメンバーは、春人のまともな戦闘を始めて見る。
だが春人は自分の事を最弱の剣士と言っていたので、その戦闘での期待値はそれほど高くはない。一方でドワーフは、その佇まいや気迫でそうとう強い事が窺える。それも見ただけで、今まで出会った事のないような最強の敵だという事が分かった。春人に天賦の才を付与された今であっても、心の底から恐怖していた。
しかし、勝負は一瞬で終わった。ドワーフが槌を振り上げた瞬間に春人はその懐に入り、胴体を一閃した。二撃目でドワーフの槌を根本から吹き飛ばす。ドワーフが武器を手放すと、次から次へと連続の斬撃を叩き込む。華麗で一切無駄のない連続攻撃に一同は衝撃を受ける。
たしかに、うららの時とは違い春人の動きは見えてはいた。だがそれは、ドワーフが槌を振り上げるまでだ。一瞬だけ春人は消えた。まるでドワーフに隙を与え、隙が出来た瞬間だけ全力を出したような動きだった。
その後の連続技や攻撃の威力、相手の動きを全て封じ、まったく反撃を許さないような流れ。熟練の剣豪が素人剣士でも相手にしているような圧倒的な力の差。
「ぷぎゃっ――ごぶぉっ。」
ドワーフが金色の小人に変わる。同時にヴァンサンが呟いていた。
「いったいどこが最弱なんだよ。」
「……だね。最強の間違いじゃないの?」
ドワーフの金の像から声が聞こえて来る。
『がはははは。また揉んでやったわい。』
うららがドワーフに突っ込む。
「春人に手も足も出なかったのに、何で上からなのよ。」
春人が、タブレットを操作した。
「今日はこんな感じだ。大丈夫か?」
追加した天賦の才
≪ 春人 ≫
四季魔法Ⅰ 4万円(割引チケット)
復体5万円
≪ うらら ≫
①テイムⅠ 19万5千円(割引チケット)
②聖気完全解放 Ⅰ 21万円(割引チケット)
③光気完全解放 Ⅰ 22万5千円(割引チケット)
④信仰者付与Ⅰ24万円(割引チケット)
⑤遊技Ⅰ 5万円(割引チケット):{ 翼 補助技{運搬技Ⅰ冒険技Ⅰ偵察技Ⅰ}歌手技{踊技Ⅰ 音楽技Ⅰ 歌技Ⅰ}}」
≪ コユキ ≫
①武技Ⅰ 3万円
②探検技Ⅰ 5万円{ 翼 補助技{運搬技Ⅸ 冒険技Ⅰ偵察技Ⅰ} 採守技Ⅰ{堅守Ⅰ 採掘技Ⅰ 算術技Ⅰ}}
③四季魔法Ⅰ 5万円
『がはははは。良いぞ。』
「じゃあ。ありがとな。また頼むよ。」
『がははは。またな。さらばだ。』
春人は、タブレットを手放し、もう一度スキルを唱えた。
「【 格闘 遊戯 】猪」
「ふんぬっ。小童。ずいぶんと久しぶりだな。」
「一週間は経過したけど、先週だろ。猪のスキル付与は、なんでも付けられるけど、発動しないものや劣化する場合があるんだよな?」
「ふんぬ。そうだ。」
「具体的にどういう事なんだ?」
「無属性は基本的には発動しない。天属性は発動はするが、パッシブのみで、その場合は劣化をする。アクティブスキルは聖者 聖女 英雄の職業であれば、発動は出来るが同じく劣化する。」
「瀕死自動回復はどっちに該当する?」
「人間ではアクセス出来ないが、スキル自体が自動で発動するものは可――」
『 ――Ready GO! 』
「質問は後にし――」
「オーケー。」
戦いが始まると真の友情のメンバーは、参考にする為に戦いを見つめていた。
だがそれはまたしても、すぐに終了する。春人は前回とはレベルや才能が格段に違うのだ。
「べぎょすっ――ぎょあっーー。」
レンジロウがマリナに言う。
「春人は本当に神なのではないか? あれなら魔王でも簡単に倒せるだろう。そういう次元だぞ。」
「そうだね。間違いないでしょう。」
倒された猪が金色の猪に変わる。
『ふんぬ。まだまだ。しかし、前回より少しだけ強くなったようだな。』
「そうか? 戦闘は相変わらず弱いが、これがゲームなら負けないのは、前と一緒だ。」
『誰に何のスキルを付ける? 先程の質問から察するに該当者は一人しかおらんがな。』
「はずれだ。元から天属性の者にも付ける。」
1つ一万円
≪ 春人 ≫
【魔導転移】(考察遊戯で春人が製作)
【防御強化】(考察遊戯で春人が製作)
≪ うらら ≫
【魔導転移】
【天の境地】我慢&即死耐性
【瀕死回復Ⅰ】
【自動発動】
≪ コユキ ≫
【魔導転移】
【防御強化】
【天の境地】我慢&即死耐性 → 我慢&即死耐性(小)
【瀕死回復Ⅰ】
瀕死時HP70%自動回復 → 残りHP30%で28%自動回復
【体天】 HP+5000 → +2000
【堅天】 守+1000 → +400
【天心】 精神+1000 → +400
春人はゴールドをお金に換え、125万円に変換した62.5万ゴールドを支払っていた。
「うららとコユキもこれで飛べるようになったぞ。ヴァンサン達も、目的地まで飛行の練習から始めようか。」